山寺宏一の現在(いま) ~唯一無二の存在であり続けるために~
2023年12月2日、日本工学院専門学校(蒲田校)の片柳記念ホールで、山寺宏一さんによる特別講義『山寺宏一の現在(いま) ~唯一無二の存在であり続けるために~』が行われました。山寺さんの特別講義は、2021年、2022年に続いて3年連続の開催。業界のトップランナーとして唯一無二の存在であり続ける山寺さんにお話をうかがい、表現の可能性や努力し続けることの大切さなどを学ぶことが目的です。受講者は、エンタテインメント業界をめざす本校クリエイターズカレッジの学生たち。山寺さんと親交の深い冨永みーな先生(声優/本校声優・演劇科講師)が司会進行役を務め、事前に学生たちから募集した質問や生質問に山寺さんが答える形式で行われました。
山寺 宏一さん
【プロフィール】
声優、俳優、タレント、ナレーター。アクロスエンタテインメント所属。宮城県塩竈市出身。
出演作は、〈アニメ〉『メガゾーン23』(中川真二役)、『それいけ!アンパンマン』(チーズ役、カバお役ほか)、『アラジン』(ジーニー役)、『新世紀エヴァンゲリオン』(加持リョウジ役)、『カウボーイビバップ』(スパイク・スピーゲル役)、『攻殻機動隊SAC』(トグサ役)、『かいけつゾロリ』(ゾロリ役)、『ルパン三世』(銭形警部[2代目]役)、『ドラゴンボール超』(ビルス役)、〈外画〉『マスク』(ジム・キャリー)、〈ゲーム〉『龍が如く4 伝説を継ぐもの』(秋山駿役)など多数。第38回ギャラクシー賞奨励賞(2000年)、第3回声優アワード富山敬賞(2009年)、ファミ通アワード2013キャラクターボイス賞(2013年)、第24回日本映画批評家大賞アニメーション声優賞(2015年)、第14回声優アワード外国映画・ドラマ賞(2020年)などの受賞歴がある。
冨永 みーな先生
【プロフィール】
声優。俳協(東京俳優生活協同組合)所属。広島県広島市出身。本校声優・演劇科講師。出演作は、〈アニメ〉『サザエさん』(磯野カツオ役)、『それいけ!アンパンマン』(ドキンちゃん役、ロールパンナ役ほか)、『機動警察パトレイバー』(泉野明役)、『北斗の拳』(リン役)、〈ナレーション〉『開運!なんでも鑑定団』など多数。
「メンタルについて」
メンタルの保ち方
山寺さんはエゴサーチをされるそうですが、批判的な意見やマイナスイメージの意見など、傷ついてしまうこともあると思います。
いわゆる負の感情を抱いたときに、山寺さんはどう発散もしくは対処しているのでしょうか?
山寺
エゴサーチすると「山ちゃんはこんなところがダメ」とか「どの役をやっても同じ感じ」って書かれて、そりゃ傷つきますよ(笑)。寝るときずっとその文字が頭に浮かんで、周りで褒めてくれる人はお世辞だったんだって本気で思いますもん。
冨永
もうやめてください、エゴサーチ(笑)。
山寺
だからもうエゴサーチはしないです。奥さんが先に見て、褒めているものだけ僕にスクショして送ってくるんです。「これは絶対自信あるぞ」という演技ができたときは自分から見に行ったりするんですけど、たまに返り討ちにあうんですよ(笑)。「えー、こんなに頑張ったのに」と思っても、人の評価ってみんな違う。
冨永
それぞれの人の思いは違っていいんですけど、ネット社会の弊害なのかもしれませんが、悪口めいたものはない方がいいと思うんです。
山寺
確かに。でも、鋭い目を持つことは必要だと思いますね。なんでも肯定するんじゃなくて、「この人、あんまりここは良くないな」って気づくことも大事です。僕はスタジオで仲間がダメ出しされるときに、きっとダメ出しが来るだろうなって思いますもの。僕はそれがわかる人でいたいし、自分に対するダメ出しはもちろん、他の人に対するダメ出しもすごく役に立つと思います。
冨永
大事なことですね。私も授業中、一人ひとりにアドバイスというかお話をしますけれど、他の人たちも聞いていてねっていう思いはあります。他人事でなく自分事ととらえる力は大切だなって思っています。
山寺
うん。そうですね。そこから学ぶことがあるからね。ただ、それとSNSに書き込むのは別ですからね。いちいち書かなくてもいいことですし。
冨永
そうですね。対処についてはお話しいただきましたが、発散についてはどうですか?
山寺
冨永
山寺
冨永
山寺
冨永
自信
私はオーディションや授業を受けるたびに、才能がある人を見ると「やっぱり私なんて…」と落ち込んでしまうことがあります。
山寺さんも若手の頃に自信をなくしてしまう出来事などはありましたか?
山寺
はい、もちろんいっぱいありました。なかなかメインの役がいただけないとか、思ったような役をいただけないとか、いろいろありました。どうしても人と比べてしまって落ち込むことは未だにありますね。でも、若いときはしょうがないんじゃないですか。
冨永
逆の見方をすると、それは一緒に授業を受けている人をよく見ているってことですし、あの人のここがいいなとか、この人のここがすごいなって思うのは、むしろ大事なことだと思います。問題は、落ち込んだ後ですよね。落ち込むのは悪いことではない、落ち込んだ気持ちのまま終わっちゃうのが良くないと思うんです。落ち込んだ後、自分は何をするかっていうことが大事なのかもしれないですよね。
山寺
その通りです。人類は有史以来、落ち込んで、また立ち上がるというのをくり返してきたわけで。どんなすごい人だってそうなんだから、自分なんて落ち込んで当然。むしろ落ち込まない方がよくないというか、それは慢心だと思いますね。
冨永
難しいですね。自信満々でもよくない。
山寺
もちろん、どこかに自信を持ってなきゃいけない。自分自身を信じなきゃいけない。と考えると、自信ってなんだろうと思うんですよ。僕はもともと緊張しやすくて、本番前はすごく緊張するし、特にものまね番組に出るときは震えるぐらい緊張します。ものまね芸人の方々と違って、僕はそこでしかものまねをしないから、相当な覚悟で臨むんですよ。それで、自分ではやりきったと思っても、評価が高くないとやっぱり落ち込んじゃう。
みーなちゃんは真面目だから、ものすごく練習するよね。変な言い方だけど、準備不足で現場に行ってダメだったときと、メチャメチャ練習して現場に行って結果が出なかったときと、どっちが落ち込む?
冨永
メチャメチャ練習したら、例え結果が出なくても、やっただけのことは残ると私は思うんです。だから、やっぱり何事も準備が大事なんですよ。
山寺
やるだけやったんだからしょうがないっていうね。何の準備もしないで現場に行ってダメだったら落ち込まないかもしれないけれど、悔いは残ると思うんです。何の準備もせず現場にやってきて、その場の感覚でやっているように見える人でも、絶対準備はしていると僕は思っています。
冨永
学生のみなさんも高校生の頃を思い出してもらうと、テスト前に「何にもやってきていない」という人がいたかと思うんです。でも、それはその人の基準で「やっていない」だけで、実際にはやっているんですね。プロの現場でも「今日はすごく練習してきた」なんてわざわざ言う人はいません。プロなら、やってきて当然だからです。何も言わなくても、スッと始まったときに「この人、すごくやってきている」と感じることもあります。
山寺
僕も最低限の努力や準備は絶対にするべきだと思います。でも、この質問の人のように、自分はこれだけ練習してきたんだけど周りの人はさらっとやっていてすごいなと思うことって、きっとみんなあると思いますよ。
冨永
もしかしたら、お互いにそう思っているのかもしれないですよね。山寺さんは、周りの人の方がすごいって思えちゃう時ってないですか? 私はありますけど。
山寺
うん、あります。でも、やっぱり自分の中でしっかりとした自信を持ち、それをもとにがんばるしかないんですよね。
冨永
そうですね。では、ここまでは学生のみなさんのアンケートをもとにうかがってきましたが、ここからは生の声をうかがっていきたいと思います。
※講演の一部をテキスト用に再編集しています。
発散については、周りに聞いてくれる人がいるかどうかっていうことが非常に大きいですね。僕は周りの人にいつも愚痴をこぼしています(笑)。悩んだときに何でも聞いてくれる人が周りに一人でもいると、全然違うと思いますよ。もちろん、愚痴を言うだけじゃなく、聞く側に回ることも大切。バランスが大事ですからね。