山寺さんに学ぶ 次への心得 ~信じぬく力と準備~
2025年12月13日、日本工学院専門学校(蒲田校)の日本工学院アリーナで、山寺宏一さんによる特別講義『山寺さんに学ぶ次への心得 ~信じぬく力と準備~』が行われました。山寺さんの特別講義は、2021年以降5年連続の開催。エンタテインメント業界のトップランナーとして走り続ける山寺宏一さんにお話をうかがい、自分自身を信じぬく力や日頃の準備の大切さなどを学ぶことが目的です。今年は声優・演劇科の学生を中心に、他学科の学生や本校職員など約1,000名が聴講。山寺さんと親交の深い冨永みーなさんが司会進行役を務め、さまざまな質問に山寺さんが答える形式で行われました。
山寺 宏一さん
プロフィール
声優、俳優、タレント、ナレーター。アクロスエンタテインメント所属。宮城県塩竈市出身。
出演作は、〈アニメ〉『メガゾーン23』(中川真二役)、『それいけ!アンパンマン』(チーズ役、カバお役ほか)、『アラジン』(ジーニー役)、『新世紀エヴァンゲリオン』(加持リョウジ役)、『カウボーイビバップ』(スパイク・スピーゲル役)、『攻殻機動隊SAC』(トグサ役)、『かいけつゾロリ』(ゾロリ役)、『ルパン三世』(銭形警部[2代目]役)、『ドラゴンボール超』(ビルス役)、〈外画〉『マスク』(ジム・キャリー)、〈ゲーム〉『龍が如く4 伝説を継ぐもの』(秋山駿役)など多数。第38回ギャラクシー賞奨励賞(2000年)、第3回声優アワード富山敬賞(2009年)、ファミ通アワード2013キャラクターボイス賞(2013年)、第24回日本映画批評家大賞アニメーション声優賞(2015年)、第14回声優アワード外国映画・ドラマ賞(2020年)などの受賞歴がある。
冨永 みーなさん
【プロフィール】
声優。俳協(東京俳優生活協同組合)所属。広島県広島市出身。出演作は、〈アニメ〉『サザエさん』(磯野カツオ役)、『それいけ!アンパンマン』(ドキンちゃん役、ロールパンナ役ほか)、『機動警察パトレイバー』(泉野明役)、『北斗の拳』(リン役)、〈ナレーション〉『開運!なんでも鑑定団』など多数。
「次への心得」Part.2
準備が間に合わないとき
事前準備が間に合わないままお仕事に臨まれたことはありますか。もしあれば、現場でどのように対応されましたか?
山寺
時間というのは限られていますので、「あなたに好きなだけ練習する時間を与えます」なんて言われるわけがないです。仕事が急に決まることだってあるわけですから。
冨永
それに、山寺さんみたいにたくさんお仕事を抱えていらっしゃると、一つのお仕事に関わる時間も限られてしまうと思うんですが。
山寺
忙しいときは時間を多めに取っていただいているのでそれはないですね。というか、準備っていくらやっても足りないって思うものですよ。学生のみなさんだって授業で何かを演じるとき、時間があればあるだけ悩むでしょう。もし仕事が急に決まって準備する時間がなかったら、そこは気合いでがんばるしかない。以前、朗読劇の本番前日に役者の方が急病で倒れて、代役をお願いされたこともあります。
冨永
そんなに急に?
山寺
ええ。本番が翌日だったので、必死に台本を読んで。緊張しましたけれど、代役ですし、仕事をもらえてラッキーぐらいの気持ちで臨みました。あまりプレッシャーを感じずにやれたのは、それまでの経験が生きたからかなと思います。
自分を信じる
自分自身を信じるために心がけていることはありますか?
山寺
僕はもともと自分に自信があるタイプじゃないのですが、こうしてお話する機会に改めて過去の自分を振り返ってみると、いろいろがんばってきたんだなと思いますね。実績というものは裏切らないですし、うまくいかなかったことも含めて、すべての経験が次に生かせると思っています。
でも、田舎から東京に出てきた当初は緊張して人と話すこともできませんでした。こんなに大勢の方の前で話すなんて想像もできませんでした。大学時代に落語研究会に所属していたので少しは話すことに自信が持てましたが、あくまで学生のサークルでしたから。
冨永
そこから場数を踏んで、どんどん力をつけていかれたんですね。
山寺
冨永
学生にとってはこれからがスタートなので、実績がまだありません。その場合は、何を信じていけばよいのでしょうか?
山寺
信じるのは自分のやる気しかないですよ。本気で声優や役者になりたいか、本当にその仕事が好きかどうか。それだけだと思います。
日常生活で気をつけていること
お仕事に対する心がけや準備とは別に、普段の生活で気をつけていらっしゃることはありますか?
山寺
冨永
そういえば先日、お仕事をご一緒した時、山寺さんがバラエティ番組で紹介されていた健康体操を教えてくださいましたよね。1日30秒だけでいいとのことなので、あれから毎日やっています。まだ効果は出ていませんが(笑)。
山寺
ちょっと話は違いますが、僕はアーティストのちゃんみながプロデュースするオーディション番組が大好きなんです。その番組では3つの「No」が大事だって言っているんですね。一つ目が「No FAKE」。本物になれ、偽物になるな、なんちゃってじゃダメだよということです。二つ目は「No LAZE」。怠惰はダメ、常に全力でやれ、手を抜くなということ。そして三つ目は「No HATE」。自分の過去に中指を立てるな、自分を悪く言うな、自分を信じろ。僕は「これだ!」と思いました。彼女はまだ20代なのにすごいです。
冨永
山寺
そして最後に、オーディションを勝ち抜いたメンバーに対して「この業界はいろいろと大変なことがあるけれども、大事なのは圧倒的な実力(スキル)と人間力だ」って言うんです。僕はとても感心しましたね。ライブのときにもメンバーに対して「ステージに一歩上がったらもう始まっているんだから、スタッフさんに感謝しなかったらダメよ」って。
実際、僕は40年間声優をやってきて、彼女の言うとおりだと思います。人間力が大事なんですよ。人とのつながりは本当に大切。例えば仕事場できちんとあいさつができないような人は、いくら才能があっても長くは続かないと思いますし、むしろそういう業界であってほしいと僕は思います。
冨永
私もそう思います。最近はあいさつにしても何か変になってきていますよね。
山寺
あいさつをないがしろにしたら、いずれデジタルに食われますよ。もう全部AIになると思います。そういう感じで仕事をしているんだったら人間の良さが出ないと思うから、AIに駆逐されていくと思いますよ。僕自身、それが当たり前になったらそんな業界にいたいとは思わない。だって、ものづくりはみんなでするものだから。声優や役者の仕事って一人では何もできない。お仕事はいただいてなんぼですし、みんなで一緒になって作り上げるものですので。
※講演の一部をテキスト用に再編集しています。