2022年9月13日(火)、日本工学院放送芸術科は、フジテレビのプロデューサーとして数多くのヒット作を手がけてきた成河広明氏による特別講義を行いました。講義では「映像プロデューサーの現在(いま)」をテーマに、2022年1月に公開された映画『コンフィデンスマンJP英雄編』を例にして映像作品とは何か、そしてプロデューサーが作品とどのように関わっているのかを中心に、熱い言葉で語ってくださいました。
まず、映像コンテンツの三大要素について話します。僕たちが携わっている映像作品は、大きく3つの要素に分けられます。
情報伝達
1つ目が「情報伝達」です。映像作品の中に描かれている人の表情や言葉など、すべてが情報だということを覚えておいてください。カメラマンが被写体をズームするだけで画面内の情報量が変わってきます。情報が多すぎるとかえって伝わらないし、少なすぎると内容が薄く見えてしまう。それをどう加減するかがプロの仕事です。
感情喚起
2つ目の「感情喚起」は、観ている人に喜怒哀楽を起こさせること。これが映像作品の根幹だと考えている人が多いかもしれませんが、僕にとっては要素の1つです。演出や役者さんの演技、美術や音楽によって画面から受け取る感情が変わることは、みなさんも感覚的に理解できると思います。
経済湧出
3つ目は「経済湧出」。映像作品はビジネスをつくり出さない限り、世の中に広まりません。個人がただ自由に撮ってSNSに上げている動画は未だ映像作品として不完全なもの。それで儲けようと考えた瞬間に映像作品になるのです。映画なら興行収入、ドラマなら視聴率がビジネスの成否を判断する基準になります。
この3大要素すべてを含むのが映像作品であり、どれか1つ欠けても成立しません。そこがとても重要なので、必ず覚えておいてください。
プロデューサーの仕事とは何か?
企画を考えて、脚本をつくって、キャスティングして、現場を管理して、撮影した作品を完成させて(ポストプロダクション)宣伝する。プロデューサーの仕事は多様なプロセスから成る《物語》を創出することに他なりません。たとえば、スーパーで売っている大根に生産者の写真とプロフィールが添えられているのを見たことがありますか。あれは大根の物語をつくっているんです。生産者の顔が見えることで信頼感が生まれて、誰がつくったかわからない大根よりも安心して食べられる。プロデューサーの役割は、こうした《物語》を生み出すことです。
では、プロデューサーがどのように《物語》を創出するのか、2022年1月に公開した映画『コンフィデンスマンJP英雄編』をもとに話しましょう。
企画
─すべての始まり。制作のスタート。
全ては企画を立てるところから始まります。作品を企画するのはプロデューサーやディレクターとは限りません。カメラマンさんや編集さんが企画してもいい。全てのスタッフに平等に企画を立てる権利があります。
次は、数多くの企画の中から選び、開発することです。ここがプロデューサーの仕事のスタートラインであり、一番大事な部分です。僕はここで作品の90%が決まると思っています。建物で言えば基本設計になるので、ここがうまくいかないと後からどれだけ装飾しても挽回できません。
脚本開発
─シナリオを作り上げる。
僕が『コンフィデンスマンJP英雄編』(以下、『英雄編』)を企画したのは3年前。物語の基本設計としてログラインを考えました。
ログラインは脚本の要約で、3行プロットといわれることもあります。初期のログラインでは『英雄編』というタイトルなので正義とは何かというテーマを織り込みました。よく、私の作品はひと言では表せないという人がいますが、端的にログラインで表現できない物語は必ず構成で失敗します。
『英雄編』のログラインも少しずつ変わり、レギュラーの3人が島で三つ巴のだまし合いをして、最後に大悪党をだまして宝を奪う話になりました。
このログラインをもとにプロットをつくります。プロットは大バコともいわれ、物語を章ごとに分けたパーツです。プロットを組み替えながら作品の骨格をつくる重要な局面もプロデューサーが主導します。ログラインからプロット、シナリオづくりが設計の流れになります。
『英雄編』のログラインをシナリオの一歩手前であるロングプロットにするまで約10カ月かかりました。台本はログラインから積み上げて37稿でようやく完成。『英雄編』は原作がないオリジナル作品なので自由にできる反面、誰かが決めなくてはならない。ここは主に監督とプロデューサーが決定します。
キャスティング
─ヒューマンリソースを適材適所に配置する。
台本の完成後は、作品の制作に必要なヒューマンリソースを適材適所に配置するキャスティングに移ります。『英雄編』は長澤まさみさんをはじめ主要キャストが決まっているため、今回はゲストをどうするかがポイントでした。
そして、作品づくりにおいて配役よりも重要なのが現場のスタッフィングで、現場が働きやすいようにチームの組み合わせえを考えなくてはいけない。プロデューサーが苦心するところです。スタッフを選ぶ際に、キャリアや性別や国籍は関係ありません。求められるのは技術だけでなく、コミュニケーション能力もまた重要で、僕たちプロデューサーは現場でそこを見ています。
撮影
─キャスト、スタッフのクオリティコントロールの鍵。「現場」。
撮影現場でのプロデューサーの役割は大勢のキャスト、スタッフを統括して作品のクオリティをコントロールすることです。キャストやスタッフが力を十分に発揮できる環境を、彼らの信頼に応えて整えなければなりません。
ポストプロダクション
撮影がクランクアップすると、ポストプロダクションです。カットをつなぐAVID編集の後、カラコレ(色補正)、CG、テロップやエンドロールを含む本編集を行います。並行してサウンドトラックをつくる音楽家の方々との打ち合わせを進めます。主題歌はドラマからずっとOfficial髭男dismにお願いしているので、シナリオを読んでもらい、今回のテーマであるノワール感を出したいといった打ち合わせを重ねます。
こうして企画から脚本、キャスティング、ポスプロの段階まで、プロデューサーはずっと作品に寄り添っています。物語を最初に創出してから送り出すまで、映像を構成する三大要素のど真ん中にいることが、プロデューサーの仕事なのです。
宣伝
─もっともクリエイティブな領域
作品が完成するとプロデューサーにとって、もっともクリエイティブな領域である宣伝の仕事が待っています。なぜもっともクリエイティブなのかというと、作品の魅力を伝える方法に絶対的な答えがないからです。
ポスターのコンペや予告編のディレクションもプロデューサーが担当します。テレビやWEBなどの広告、SNSのプロモーション、キャンペーンなども手掛けます。
『英雄編』では宣伝のテーマとして“コラボ“というものを掲げ、これまで映画の宣伝は踏み入れていない領域にも可能性を探りました。ヒカキンさん×長澤まさみさん、生田絵梨花さんのYouTubeコラボなどはその一例です。
公開
─お客様のもとへ。
公開と同時に物語は制作者の手を離れて、映画を観るお客様の物語になります。それでもまだプロデューサーの仕事は終わりません。作品の2次利用をどう展開していくかを考えます。
ブルーレイ・DVDのパッケージデザインやどんな特典を入れるかもプロデューサーが決めます。また、作品を配信するタイミングも管理します。
プロデューサーの仕事を軸に映像制作の流れをお話ししました。いま僕が感じているのは、映像に関わる仕事の前に、大きな海が広がっていることです。みなさんは日本工学院で最先端の設備や機材を使って学んでいます。これらの機材は世界中の映像制作の現場で使われているものと同じです。映像をつくる技術は世界共通なので、英語が苦手でも技術があれば呼んでもらえるでしょう。みなさんが活躍する場は世界中に広がっています。だから自信を持って世界へ踏み出してほしいと思います。
成河広明氏 プロフィール
株式会社フジテレビジョン 編成制作局 ドラマ・映画制作センター プロデューサー
映画『コンフィデンスマンJP』シリーズ、『ミックス。』『ストロベリーナイト』シリーズ、『謎解きはディナーのあとで』ほか。ドラマ『絶対零度』シリーズ、『遅咲きのひまわり』、『フラジャイル』、『リーガルハイ』ほか。さまざまなドラマや映画の企画・プロデュースを担当。