松任谷由実のライブツアーやFNS歌謡祭の音楽監督をはじめ、一青窈、今井美樹、ゆず、平井堅、JUJUをはじめとする数多くのミュージシャン、アーティストの音楽プロデューサー、そして数々の名曲を生み出してきたアレンジャー・キーボーディストとしても有名な武部聡志さん。ミュージックアーティスト科では、ミュージックカレッジのエグゼクティブアドバイザーでもある武部先生が学生に直接指導を行う特別ゼミ「武部塾」を定期的に開催しています。日本の音楽業界のトップで現在も活躍する武部先生が、その音楽スキルとマインドを、プロの現場での経験をもとに学生一人ひとりに注入。学生はトップレベルの技術を学ぶとともに、音楽制作の喜びや楽しさ、そしてプロの世界の厳しさを実感する機会にもなっています。
特別ゼミ「武部塾」2019年4月 現場レポート
プレイヤーコース/ヴォーカリストコース
〈バンドセッションを中心とした、武部先生による演奏指導〉
ヴォーカリストコース、プレイヤーコースの1、2年生を対象にしたセッション講義。教室にはステージ上にバンドセットが組まれ、2年生から選抜された6バンド、12人のボーカリストがセッション講義に臨みます。客席では1年生も聴講。男性ヴォーカルの課題曲は、kōkuaの「Progress」、女性ヴォーカルは松任谷由実の「やさしさに包まれたなら」。
武部先生のカウントから演奏がスタート。武部先生はキーボードプレイヤーとしてバンドに参加し、リズム隊とアイコンタクトを取りながらバンドサウンドをグイグイと引っ張ります。曲が終わると、それぞれの楽器やヴォーカルに対しての細かい指導とアドバイスを行います。リズムの取り方やギターのアプローチ、ヴォーカルのピッチ、そしてバンド全体のアンサンブルについて、すべての指導が具体的で、武部先生の「じゃぁ、もう一度やってみようか」との声で、指導を受けた所をもう一度演奏。学生は緊張しながらも、目に見えて良くなる演奏に思わず笑顔でうなずく場面も。また、バンド転換の合間には、曲をさらに理解するために、演奏のポイントとなる部分の解説や、制作時の裏話までをお話ししてくださりました。
女性ヴォーカルで松任谷由実の「やさしさに包まれたなら」を演奏した後には、「今のはユーミンのオリジナルに近い形で演奏したけど、最近僕らがライブでやっているのはね、もうちょっとビートをはっきり出して演ってるんだ。それちょっとやってみよう」との武部先生の提案で、急遽リズムパターンなどを変えて演奏するシーンも。今日のために譜面通りに楽曲を練習してきた学生ですが、プロは急な変更にも即座に対応してその場で演奏をしなければいけないこと、そしてその緊張感を、身を以て体験することができたと思います。
全バンド終了後は、休憩を挟んで質疑応答が行われました。学生の質問に一つひとつ丁寧に、そして実例を交えながらわかりやすく答えてくださる武部先生。自分の個性・オリジナリティを見つけることの大切さ、演奏時に人の音を聴くために客観的な視点を持つこと、そしてプロの音楽家として必要な心構えなど、どれもが重要な話ばかり。学生たちは真剣な表情で武部先生の一つひとつの言葉に耳を傾けていました。
サウンドクリエイターコース
〈曲作り・アレンジを武部先生がリアルタイムで行う実践講義〉
サウンドクリエイターコースでは、2年生と1年生が参加する、曲作り・アレンジ講座が開講。まず最初に武部先生の「音楽を作るということは、人に聴かせるために作るんだということを忘れないように。自分が描いた世界を人に届けるためには何が必要なのかをつねに考えながら音楽を作っていってほしい」という強いメッセージから講義は始まりました。
まずは武部先生が手がけた一青窈の大ヒット曲「ハナミズキ」のマスターリズム(ライブやレコーディングの際に使うコード・リズムだけの譜面)が配られ、「ハナミズキ」を譜面を追いながら聴いた後に、曲について、アレンジについてを解説。曲の持つ世界観、そして歌詞の持つメッセージをきちんと伝えるための、コード、響き、リズムの選び方など、キーボードでの実演を交えながら解説。どのようにアレンジされて曲が生まれてくるかを実感できました。「アレンジをする上で大事なことは、どんなものを作ろうかと考えながら、行き当たりばったりで始めるのではなく、こういうサウンドのこういう曲にしようと、しっかり曲のフォルム、完成形をイメージして取り組むこと」という武部先生からのメッセージに、創作意欲を掻き立てられた学生たちでした。
続いては、即興で作ったメロディーラインにさまざまなコードやリズムを乗せる実践メニュー。学生がその場で口ずさんだメロディを武部先生がキーボードで弾き、DAWでレコーディング。メロディに対してさまざまなコードを重ねていくと、曲の表情がガラリと変わるのがわかります。そしてもう一曲は、武部先生が用意した主旋律にベース、ドラムやストリングスを重ねていきながら、同じメロディがR&Bからバラード調まで変化する様子を実演。そしてさらに松任谷由実の「ひこうき雲」などを題材に、この楽曲の魅力がアーティスト特有のセンスからなるものだという詳しい解説がありました。学生は目の前で実演される曲と、武部先生の話に熱心に耳を傾けながら、アレンジの重要性と難しさを感じているようでした。
最後には、学生へいろいろと質問を投げかけ、進みたい道などを聞いてアドバイス。学生の質問に答える中では「月に30曲は作る!煮詰まっている暇はない」との厳しい言葉も。そして「サウンドクリエイターに大切なのは、とにかく作品を創り続けること。そして引き出しを作るために、たくさんの音楽を聴いて、本を読み、いろいろな経験をしてインプットすること」という言葉で講義は終了となりました。
武部聡志先生からのメッセージ
まず最初に僕が伝えたいのは、音楽は自由であるということ。その人が作りたいものを作れば良いんであって、そこにルールはありません。しかし音楽のプロフェッショナルの仕事は、多くの人に伝える、聴いてもらうことが大前提です。もちろん自分のやりたいことを表現することも大切ですが、それをより多くの人に伝えるためにはどうしたら良いかという工夫やアイディア、そしてそれを実現するための音楽スキルが必要になります。その技術とマインドを身につけていく期間が、この学校での学びなのだと思います。そして在学中には、人前で演奏するライブをたくさん経験し、たくさん曲を作ることが必要です。その経験こそが成長につながりますし、それを観た人、聴いた人からのフィードバックは、大切な宝物になります。武部塾もその経験の中の一つです。武部塾は、音楽の勉強をする、プロのスキルを真似する、演奏を習うといった場所だとは思っていません。僕が話すことや弾いたりすること、アドバイスなどが、何か皆さんがものを作るときのヒントになってくれれば嬉しいと思っています。皆それぞれが武部塾での経験を持ち帰って、自分のものにしていって欲しいですね。
音楽の仕事でプロとして活動していくのはとても大変なことで、本当に一生の職業にしようと思うのでしたら相当の決意が必要です。でも、自分が好きなこと、楽しいと思えることをやっている時が人間一番力が出るし、何かを犠牲にしてでも頑張ろうって思えるものです。もし音楽を選んだのなら、とにかくあきらめないでやり続けていってほしいと思います。日本工学院ミュージックカレッジで学ぶ皆さんも、もちろんそれだけ音楽が好きなわけですから、好きなものを極めるために、寝る時間も食べる時間も惜しんで音楽に没頭してほしい。そして新しく入学してくる皆さん、日本工学院ミュージックカレッジには最新の施設、そしてプロの現場をよく知る講師陣など、夢を叶えるための環境が揃っています。毎日音楽漬けになる日々を過ごしたい方、将来プロとして音楽の道へ進みたい方、ぜひ武部塾で会いましょう。そしていっしょに夢を叶えましょう!
ミュージックアーティスト担当教員&受講生からのメッセージ
From Teacher
武部先生によるプロ音楽家のスキル・マインドの継承、それが武部塾です
原田 博之先生
ミュージックアーティスト科 専任教師 ベース専攻担当/ベーシスト/アレンジャー
武部先生は、日本音楽業界のトップであると共に、今も現場の最前線で活躍されている方。その武部先生が、直接、最前線の音楽制作スキルや、今、音楽業界でリアルタイムに起こっていることなどを、学生に伝える場、それが「武部塾」です。サウンドクリエイターコースの武部塾では、特にアレンジについて力を入れてレクチャーしていただいているのですが、その場で即興で鍵盤を弾き、ハーモニーやストリングスをスピーディーに重ねていく武部先生のプロフェッショナルな作業・制作過程を、生で見ることができるということは、学生にとってとても大きな経験になっていると思います。そしてただ一方的に講義を行うのではなく、学生を巻き込んで、一緒に作っていくようなスタイルは、武部先生ならでは。学生にとってはハイレベルな授業ですが、いずれ自分たちも武部先生のようなプロの仕事ができるようになるという自信を育む大切な場でもあります。
From OB
武部先生とのバンド演奏経験がドラマーとしての大きなアドバンテージに
日比野 凱さん
プレイヤーコース(ドラム)2022年卒
武部先生と一緒に演奏できる場を持つことができたことは、自分にとって大きなアドバンテージとなりました。演奏中はとても緊張しましたが、リズムの決めでアイコンタクトをしていただけたりと、バンドメンバーとしての近さを感じると共に、圧倒的なプロのパワーを実感。演奏後には、「安定感を持って演奏すること」「音源通りにこだわらず、ヴォーカルが歌いやすいビート・ノリに気をつけるように」と、具体的にアドバイスをいただき、自分のウィークポイントを知ることができたのは大きな収穫です。さらに、「プロは短い時間の中で、いかに最高のモチベーションで演奏できるかが勝負」という武部先生の言葉が心に残りました。卒業後はバンドはもちろん、幅広く活躍するプロのドラマーをめざす自分にとって、とても大切なこの言葉を肝に命じて励んでいきたいと思います。
From OG
武部先生の言葉一つひとつから新しい考え方を学ぶことができました
中村 真季子さん
サウンドクリエイターコース 2022年卒
入学したばかりで受講した昨年の武部塾では、武部先生のお話を聞いても、わからないことだらけでした。しかし、一年間たくさんのことを学んできて受講した今回の武部塾では、講義内容をしっかりと理解することができ、自分がきちんと成長してきたのだということを実感できて嬉しかったです。武部先生の「一つのことにこだわらずに、数を沢山作りなさい。迷ったら捨てて一から作り直したほうがいい」という言葉に、新しい考え方を学ぶことができましたし、武部先生が講義の最初に仰った「音楽は自由だ」という言葉には、とても背中を押された気がしました。技術とマインド、たくさんのことを学ぶことができた武部塾に参加できたことは、これからの私が音楽制作を続けていく上で、大きな基盤となったと思います。いつかプロの現場で、武部先生にお会いして、感謝を伝えられる時が来ればいいなと思います。
◎ミュージックアーティスト科
https://www.neec.ac.jp/department/music/artist/
日本工学院
ミュージックカレッジ
ミュージックアーティスト科