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へら絞りで業界をリードする北嶋絞製作所代表取締役 北嶋社長による特別講義を実施。

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2018年09月12日

~へら絞り~ 北嶋絞製作所 北嶋社長講義「大田ものづくり学2018」

「大田ものづくり学2018」を開催中

東京都大田区は約3,500もの工場が集まる、世界でも類を見ない「ものづくりのまち」です。

それぞれの工場が「削る」「磨く」「メッキする」など、磨き抜かれた匠の技で競い合い、連携しながら新たな「ものづくり」にチャレンジする姿は、「下町ロケット」など小説やドラマのモデルにもなっています。
日本工学院は1947年に大田区蒲田に電子・工学分野の技術者養成校として開校して以来、そうした「ものづくり」の息吹を受けながら地域と共に歩んできました。2015年からはテクノロジーカレッジの特別講義として「大田ものづくり学」を開講しています。4年目となる「大田ものづくり学2018」では、現場の最前線で活躍する経営者の方々をはじめ10名の講師を招いて開催中。工場見学など教室外での体験や見聞も交えながら、匠の技の奥深さや「ものづくり」の面白さ、技術者の心構えについて学ぶアクティブなカリキュラムを実施しています。


髪の毛1本分の誤差も許されない
へら絞りにかける「ものづくり」の情熱。

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北嶋絞製作所
代表取締役社長 北嶋貴弘氏

へら絞りの技術とは?

へら絞りとは、陶芸で用いられるロクロを回して器を作るように円盤状の金属材料を回転させながら、へらと呼ばれる工具を金型に押しあてて成形する伝統的な加工技術です。

金属をパラボラアンテナや新幹線の先頭部分のようなドーム型に成形するには、プレス加工か、削って作る方法が一般的です。しかし、プレス加工は型抜き時に破損や反りが発生することがあり、金属の塊を削り出して大きな製品を作る製法には時間とコストがかかり過ぎるという問題がありました。へら絞りなら、熟練の技を持つ職人の手で失敗もなく、確実に機械を上回る精度の加工を実現できます。

今回の講師にお迎えした北嶋貴弘さんは、ヘラ絞り技術の最高峰としてNHKの「探検バクモン」や「超絶 凄ワザ」に取り上げられ、人工衛星、飛行機、ロケットなどのエクステリア(外装)を製造する北嶋絞製作所の代表取締役社長。

その「ものづくり」にかける情熱を「大田モノづくり学2018」で語っていただきました。
講義は会社の歴史からスタート。大田区で畳屋を営んでいた北嶋さんのお祖父さんは、戦後間もない昭和22年に日本人の暮らしもアメリカ式に変わっていくと考えて、金属加工へと家業の転換をはかりました。時代の先を見通す力があったんですね。


絞り動画を見る

へら絞り加工のサンプル・ムービー(外部リンク)

続いては、動画を見ながらへら絞りについての説明です。回転する平らな金属の円盤が、職人さんの操るへらによって魔法のように形が変わっていきます。しかし、本当に驚くべきは、その加工精度です。JAXAのH2ロケットや電波望遠鏡のパラボラアンテナに求められる誤差は、わずか100分の数ミリ!髪の毛の太さが約0.1ミリですから、もっと小さな範囲に誤差を抑えなければなりません。最先端の工作機械でも難しい精緻な加工を可能にする職人の技。それは、どのようにして鍛えられたものなのでしょうか。

材料工学を学び、加工技術を習得する。

「へら絞りの職人は、金属と会話をしている」と北嶋さんは言います。
「無理やり力を加えて曲げようとすると、均一な厚さに絞れません。金属から伝わる音と振動を体で覚えることが大事です。熱を加えながら絞るチタンの場合、温度も職人の感覚で測っています。金属は熱を加えると膨張します。冷えると縮むため、それを計算しながら絞らなければならない。これはコンピュータで制御された最先端の工作機械を使っても難しい作業です。ハイテク機器を上回る精度の高い加工が、なぜ人の手で可能なのか?それは、数多くの失敗を繰り返しながら材料工学について学び、加工技術を習得した成果にほかなりません。多少の個人差はありますが、ヘラ絞りの職人が一人前になるまで約10年。でも、そこがゴールではない。素材や形状によって絞り方が違うので、新しい仕事のたびにチャレンジする必要があります」
チタンやタングステンといった新しい素材、航空機やロケットなど用途の進化に合わせて、技術で超えるべきハードルも高くなる。でも、そこにへら絞りの面白さがあると北嶋さんは語ります。3DプリンタやAIも真似できない超絶技巧を可能にしているのは、創業以来守り続けてきた「ものづくり」のポリシーです。

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高品質こそが最も優秀な営業マン。

北嶋絞製作所には、営業マンがいません。それなのに、次々に仕事の依頼が絶えない理由は、どこにも負けない製品の品質に加えて、創業時から代々受け継ぎ、守り続けてきた「ものづくり」のポリシーにあると北嶋さんは語ります。
「まず、他社ができない仕事をやること。常に困難な仕事に挑戦し続けること。そして、一度受けた仕事は必ずやり遂げることです。それがウチでなければできない、他社がマネしようとしても追いつけない付加価値を生み出すもとになる。北嶋絞はどこよりもコストが高いって言われるけど、技術を安売りしてはいけない。適正価格を守ることは、自分たちの誇りを守ることでもある。どんな仕事でも、それは同じだと思う。お客さまに納得してもらえるだけの技術や品質を提供できるなら、価格競争に巻き込まれることはありません」

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AIを活用して匠の技を磨き
さらなる可能性へ挑む。

いくつもの工場に相談して「できません」と断られた依頼主が、最後に頼るのが北嶋絞製作所。従業員20数名の小規模な会社でありながら、ハイレベルな技術と確かな信頼は、業界で知らない人がいないほどです。大手企業が極秘裏に開発を進めている製品の試作を依頼されることもよくあるとのこと。ロケットや新幹線の部品から電波望遠鏡のパラボラアンテナ、半導体製造装置など、最先端のハイテク機器を支えているのは、ヘラ絞りの職人技なのです。工業製品だけでなく、有楽町マリオンのからくり時計をはじめとするモニュメントや、輪島塗とのコラボ、高級時計ショップのディスプレイなど、北嶋絞製作所の技術は暮らしを彩る工芸品やアートにも貢献しています。

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アキラ100%が北米公演に使ったお盆も絞りました、と笑いながら話す北嶋さん。

職人気質でありながら、新しいものをどんどん取り入れようとする意欲と柔軟な姿勢を感じます。そんな北嶋さんが取り組んでいるテーマは、絞り加工の自動化です。
「職人の技をプログラムに移して、機械で加工できるようにオートメーション化を進めているところです。簡単なものは機械で自動的に絞れるようになれば、職人はもっと精緻な絞り加工に集中して、技術に磨きをかけられる。将来的には、AIを活用することも考えています」
AIが人の仕事を奪ってしまうと危機感をもつ人が多い中で、北嶋さんはAIとの共存により、さらなる技術の高みを目指そうとしています。北嶋絞製作所の匠の技はこれからも進化し、人でなければ成し得ない精密加工の素晴らしさを「ものづくり」の歴史に刻み続けることでしょう。

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講義の後で機械設計科の学生と記念撮影


◎機械設計科
https://www.neec.ac.jp/department/technology/machine/
◎北嶋絞製作所
http://www.kitajimashibori.co.jp/

日本工学院専門学校
テクノロジーカレッジ
機械設計科
教師:斎藤 雅典

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