北嶋絞製作所の所在地はJR大森駅から車で約15分。工場や物流センターが並ぶ京浜島工業団地の一角です。
講義の後日、機械設計科の学生たちが北嶋絞製作所を訪問して工場を見学し、へら絞りを体験させていただきました。では、北嶋さんに工場内を案内していただきましょう。
正面入り口から中に入ると、天井が高く大きな空間が広がる第1工場。ここは何台ものろくろが稼働し、職人さんたちが作業に集中している絞り加工のメイン工場です。硬い金属の円盤が職人さんの操るへらにより、見る見るうちに形が変わっていく。初めて目にするへら絞りの妙技に、視線が釘付けになります。
「絞っている材料と型の間にすきまがあると、たたいた時に甲高い音になる。ぴったり絞れていれば、低く鈍い音になるので、職人は仕上がりを耳で聞き分けています」と話す北嶋さん。実際に音を出してもらい、その違いを確かめます。もうひとつ、ろくろの隣に並んでいる何十本ものへらです。加工する素材の硬さや厚み、絞る型に合わせて使い分けるへらも、職人さんが自分の手で作ったもの。見ただけではわからない微妙な違いが、へら絞りという技巧の精度を物語っています。
第2工場には、へら絞りに使うたくさんの金型がストックされています。以前は量産しない特注品を絞る時、木型を使って作っていました。近年は木材の価格が高騰したため、NC旋盤やプレス機を使って金属の金型を作った方が安いそうです。
建屋の一番奥にある第3工場では、ちょうど材料を加熱しながら絞る自動機械が稼働していました。この自動絞り加工機は、職人さんの動作をプログラムで記憶・再生するティーチング機能を持っており、北嶋さんが進めるオートメーション化の一環として大きな成果を上げています。この日絞っていたのは水素ボンベ。究極のエコカーとして実用化が進められている燃料電池車に搭載されるボンベの試作品です。自動車メーカーの先端技術も、匠の技が支えています。
工場内を見学した後は、いよいよへら絞りに挑戦。厚さ0.8mmの円盤をお皿の形に絞ります。ベテランの職人さんに力加減を教わりながら、ゆっくりへらを押しあてていきます。思ったより力を入れる必要はなく、膝から下を使って体重移動でへらを動かしていくのがコツ。型に沿って25mmくらい絞ったら、ローラーのついたへらで端を丸めて完成です。
自分が絞ったお皿を手に取って、ながめたり、叩いたりする学生たち。まだ冷めないお皿から伝わる微熱に、「ものづくり」の楽しさと匠の技への興味を呼び覚まされたようです。北嶋絞製作所を訪問したことにより、CADをはじめとするデジタルな機械設計を実現するには、アナログな人の経験や感覚が欠かせないことを実感しました。見学や体験で刺激を受け、「ものづくり」の奥深さに触れられたことこそが、最大の収穫なのです。
◎機械設計科
https://www.neec.ac.jp/department/technology/machine/
◎北嶋絞製作所
http://www.kitajimashibori.co.jp/
日本工学院専門学校
テクノロジーカレッジ
機械設計科
教師:斎藤 雅典