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善大工業 福富社長を招き、大田ものづくり学2018特別講義を開催。

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2019年05月16日

善大工業 福富社長特別講義 【大田ものづくり学2018】

「大田ものづくり学2018」を開催中

東京都大田区は約3,500もの工場が集まる、世界でも類を見ない「ものづくりのまち」です。

それぞれの工場が「削る」「磨く」「メッキする」など、磨き抜かれた匠の技で競い合い、連携しながら新たな「ものづくり」にチャレンジする姿は、「下町ロケット」など小説やドラマのモデルにもなっています。
日本工学院は1947年に大田区蒲田に電子・工学分野の技術者養成校として開校して以来、そうした「ものづくり」の息吹を受けながら地域と共に歩んできました。2015年からはテクノロジーカレッジの特別講義として「大田ものづくり学」を開講しています。4年目となる「大田ものづくり学2018」では、現場の最前線で活躍する経営者の方々をはじめ10名の講師を招いて開催中。工場見学など教室外での体験や見聞も交えながら、匠の技の奥深さや「ものづくり」の面白さ、技術者の心構えについて学ぶアクティブなカリキュラムを実施しています。


高専から大学院へ進学し、就職後に医大で学びながら起業!
ユニークな経歴を経て「ものづくり案内人」の道へ。

代表取締役 福富善大氏

株式会社善大工業
代表取締役 福富善大氏

試作品や実験装置など、1点ものに町工場の技術を結集

今回の講師にお招きしたのは、善大工業の創業者であり医学の博士号を持つ福富善大さんです。ものを作ることが大好きな福富さんは、高専から工業大学に編入学して大学院へ進学。2004年に地元の北海道から遠く離れた大田区の安久工機に就職しました。働きながら東京女子医科大学大学院へ入学して、2014年に善大工業を設立したというユニークな経歴の持ち主。善大工業では、医療機器や工作機械、精密機器の試作品や実験装置など、1点ものを中心に町工場の技術を結集したものづくりを追求しています。
今回の講義で福富さんは「町工場への”こだわり”~修行・起業・現在~」をテーマに語ってくださいました。その中には、これから学生のみなさんが自分自身の進路を決めるうえでも、技術者として働く際にもヒントになる言葉がたくさんあります。では、講義のスタートです。

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善大工業(facebookより)

理想のものづくりを求めて、北海道から大田区へ

「本当は地元で就職したかったのですが、北海道にはものづくりをしている会社がとても少ないのです。なければ自分で作ってしまえばいい、と考えたのが起業を志したきっかけでした。学生ならではの無謀な思いつきだったかもしれません。自分に技術や能力がないのは理解していたので、どこかで修行をしなければと思いました。それが就職活動の原点です。」と話す福富さん。中小企業に絞ったのは、大企業では自分の意見やアイデアを聞いてもらうことが難しいと思ったからです。組織が大きければ、何かを決める際に多くのプロセスが必要になります。中小企業なら、ダイレクトに経営者に意見を伝えられるというイメージを持っていました。
「もう一つこだわったのは、入社試験がないことです。適正やSPIや小論文など、対策のために勉強するのがイヤでした。医療機器から文房具のメーカーまで、数百社のHPを調べましたが、どこも同じで差がわかりません。その頃の私にとって、ものづくりのメッカといえば、東京・大田区と衛星『まいど1号』で知られる東大阪です。双方の産業振興課にメールで問い合わせたところ、大田区から返事が来て、紹介されたうちの1社が安久工機でした。さっそく会社を訪問して、当時専務だった今の社長とお話しするうちに、面白い会社だと思い入社を志望したのです。入社する際に10年で独立したいと伝えたら、先代の社長がそれくらいの気構えがないと独立はできない、と快く迎えてくださいました。」

大田区から若手の工匠として表彰され、大泉洋さんの番組に出演

福富さんが安久工機に魅力を感じたのは、量産品ではなく試作開発を行っていたからです。一般的なものづくりは細分化されていて、自動車であればエンジン、車体、タイヤなど部品ごとに分かれて製造されています。でも、福富さんは分業された一部分ではなく、最初から最後までものづくりに関わりたいと考えていました。試作品の製造は、その理想にぴったりだったのです。
安久工機に就職した福富さんは、次世代を担う大田区の腕利き職人を表彰する「大田の工匠Next Generation」の一人として選ばれました。より良い医療用機器を製造するためには、医学の知識と現場の体験が必要だからと東京女子医大の大学院に入学。2014年には、北海道出身の技術者を応援するという企画で札幌テレビ放送製作の人気バラエティ番組「1×8(イッパチ)いこうよ」に2週連続で取り上げられた福富さん。番組のMCである大泉洋さんと木村洋二アナウンサーの訪問を受けて堂々のTV出演を果たしました。そして2014年に善大工業を設立。町工場の経営者として第一歩を踏み出します。

善大工業は、お客様のイメージを形にするものづくりのハブ

善大工業は、独自の技術や特殊な機械を持っているわけではありません。お客様から、こういうものを作りたいという依頼を受けたら、そのイメージを元に設計図を起こします。そして、大田区を中心に全国各地の町工場と結んでいるネットワークの中から、それぞれの部品ごとに加工が得意なところを選んで発注します。その後、出来上がった部品を社内で組立・調整してお客様に納品するのです。お客様は作りたいものを図面化できないし、加工屋さんは図面がないものづくりは苦手です。善大工業は、その間を繋いで町工場の技術力を結集し、お客様が求めるものづくりを実現するハブの役割を果たしています。
「当社の強みは、A社の技術とB社の技術を組み合わせて、Zという新しい装置を生み出すノウハウがあることです。アルミやステンレス、真ちゅう、プラスチックなど、作りたいものの用途や構造によって最適な材料の選び方も変わってきます。お客様が納期や費用を考えながら加工業者を探したら、何週間もかかってしまうでしょう。当社は、図面を描く段階で、どの加工屋さんにお願いするかをイメージしています。加工屋さんも得意なものは安く、早く仕上げられる。お客様も、量産化までには試作を何十回も繰り返すので、できるだけコストは安く抑えたい。当社が間に入ることにより、結果としてハイクオリティでスピーディなものづくりを実現できるので、お客様にも加工屋さんにも喜んでもらえるのです。」
お客様は、作りたいものの絵を描いて依頼するだけ。詳細設計、加工、組立、納品までワンストップで善大工業が請け負います。福富さんが率いる善大工業は、まさしく「ものづくりの案内人」なのです。

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ものづくりへのこだわりが実現した、曲がらない車椅子

最近、善大工業が手がけた製品のひとつに「直進軽快車椅子」があります。これは、介護機器のメーカーから、勾配のある道路でも傾かずに進める車椅子を作りたいという依頼を受けた鉄工所が、福富さんに設計してほしいと相談してきたものです。道路の路肩は、水はけをよくするために、水勾配という傾斜がついています。歩いている時は気になりませんが、車椅子の前輪が傾いて曲がろうとするのを戻しながら押すのは骨の折れる作業です。介護する側も高齢化が進んでいるため、できるだけ軽い力で真っ直ぐに動かせる車椅子を作る必要がありました。「直進軽快車椅子」は、思い切って前輪を固定したことにより、道に多少の傾斜があってもふらつきません。車輪の主軸を前に出して、重心を後ろに下げたため、段差があっても前輪を持ち上げて簡単に乗り越えられます。前輪を上げ過ぎて、ひっくり返らないように後ろに車輪を2つ増やして6輪にしました。
「一般的な車椅子は、アルミのパイプを溶接して作りますが、この試作品は精度を高めるために、全ての部品を削り出して製造しています。数ミリのわずかな誤差でもバランスに影響するので、不具合があったときに、どこを改良すればいいのか、わからなくなってしまうからです。」と話す福富さん。試作品の製作には、こだわりと同時に、合理的な発想も大切だと言います。

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一般的な車椅子と直進軽快車椅子、段差乗り越え時の違い

常に新しい分野へ挑戦したいから、同じものは作らない

「試作品において重要なのは、作ったものが想定した通りに機能することです。だから、デザインについては配慮しません。外観に時間とコストをかけるべきではないからです。部品を自前で作ることにもこだわりません。装置に組み込むために、おもちゃを買って中に入っているモーターを使うこともあります。ホームセンターや専門店の売場で、どんなものが調達できるかなど、引き出しの多さが私たちの強みです」と語る福富さん。近隣にあるホームセンターの、どの売場に何が置いてあるかまで把握していると笑います。
善大工業には、大手のメーカーから大学、病院、商社、個人にいたるまで、さまざまなお客様から試作品や特注品の製造依頼が来ます。単品を効率よく大量生産するよりも、専門分野に特化しないで、広く浅く毎回違う業界で新しいものを作る。変化と刺激に満ちた仕事こそが、福富さんの理想とするものづくりなのです。

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常識にとらわれないアイデアで「コマ大戦」を制覇

「技術が足りなければ、アイデアで勝負すればいい」と語る福富さん。そのアイデアを存分に発揮したのが「全日本製造業コマ大戦」の世界大会制覇です。この大会は、神奈川県にある町工場の社長が考案したもので、大田区の「下町ボブスレー」、墨田区の深海探査艇「江戸っ子1号」と並んで、町工場を盛り上げるためのプロジェクトとして注目されています。すり鉢状にくぼんだ土俵でコマを回して、先に止まるか土俵の外に出た方が負けというシンプルなルールで、2012年にスタートして以来、延べ4000組が参加している一大イベントです。コマは質量が重いほど強いので、各社とも材質や形状にこだわったコマを開発します。しかし、2012年の大会で福富さんの考えたコマは、電池とモーターで回転時間を大幅に伸ばすというギミックが内蔵されていました。モーター等の電子部品の使用は、反則ではありません。福富さんはルールの盲点を突いた仕掛けで地方予選の初優勝を手にしました。このコマの仕掛けを問題視した大会の運営サイドは新たなルールを作り、部品交換を規制して電池の交換を封じたのです。

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テレビで特集、ルールの盲点を突く独創的なコマ

しかし、2015年の世界大会に登場した福富さんのコマには、参加者も運営もアッと驚かされます。それは、モーターを搭載して電池が切れるまで回り続ける円筒形のコマ。外見も一般的なコマの形とはかけ離れた、回転する筒です。ブーイングを浴びながらも、福富さんは動じません。批判をものともせずに決勝まで進み、ついに世界大会を制覇してしまいます。
「勝ちたいから、工夫をしていろんなものを作る。ものづくりの正解はひとつじゃない。いろんな発想があって当たり前です。ルールの範囲に収まっているなら、それはアイデアの勝利ということ」と語る福富さん。その斬新かつ大胆な発想に共感した、名古屋のカジミツという会社の代表を務める松宮さんが声をかけてきました。二人は意気投合して、「審議隊トミー&マツ」というチームで「コマ大戦」に参戦することになったのです。
次の世界大会において、運営サイドはモーターの使用を禁止するというルールを策定して電動コマを排除しました。電動というコンセプトそのものを封じられた「審議隊トミー&マツ」が次に作ったのは、接地する軸の先を極限まで尖らせたコマ。あらかじめ軸を高速回転させて試合開始時に土俵際に置き、その位置で回り続けて相手のコマが倒れるのを待つという作戦です。次々に繰り出されるアイデアは、どれもその時点ではルール違反といえないため、運営サイドも黙って見ているしかありません。ついに「審議隊トミー&マツ」は世界大会と全国大会を連覇してしまいました。
「コマ大戦」の運営と参加者に衝撃を与えた「審議隊トミー&マツ」のコマは、テレビ朝日の深夜番組「マツコ&有吉かりそめ天国」でも悪役として取り上げられたほどです。番組に出たことで、YAHOO!の話題ランキングは最高8位まで上昇。それまで批判的だったTwitterのコメントが急に肯定的になったそうです。

豊かな人生経験が、優れたアイデアの引き出しになる

「いま、『コマ大戦』は国内28カ所、海外6カ所で開催されています。このイベントを通じて日本各地の町工場の人と仲良くなれるし、異業種との交流もはかれる。自社の技術力アップや社員教育の一環として活用しているところもあります。この大会に参加したことをきっかけに、離れた地域の会社が提携して新しい技術を生み出すなど、町工場の活性化に大きな役割を果たしています」嬉しそうに話す福富さんは、既に次の大会に向けたアイデアを温めているようです。福富さんのように、自由な発想力を身に付けるには、どうすればいいのでしょうか。
「学生のみなさんに言っておきたいことは、社会に出る前にできるだけいろんな経験をしてほしいとうこと。思い切り遊ぶのもいい。美術館に行ったり、何かを習ったりしてもいい。今までやったことのないことに挑戦してください。ものづくりの現場で必要なのは、頭がいい人ではなく、何か問題が起きた時に対処できる賢い人です。そのためには学生のうちから豊かな人生経験を積んで、自分の引き出しを増やしてください」学生に向けた福富さんからのメッセージで、講義は終了しました。

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福富氏を囲んで記念撮影

聴講の後で

ものづくりへの憧れから高専を経て大学院へ進学した福富さん。起業という目標を実現するために10年かけて技術とノウハウを習得し、働きながら医大へ通って博士号を取得するなど、ご本人は何でもないことのように語りますが、努力が必要です。就職活動で数百社を企業研究した熱意や、大田区と東大阪の振興課に問い合わせた行動力、医療機器を製造するために医大へ入学した探求心は、学生のみなさんにもぜひ参考にしてほしいと思います。それは起業のためだけではなく、技術者として働くうえでも必要なことだからです。
「技術が足りなければ、アイデアで勝負すればいい」という福富さんの言葉を忘れないようにしてください。豊かな発想力を身につけるために充実した学生生活を過ごしてもらいたいと思います。


◎機械設計科
http://www.neec.ac.jp/department/technology/machine/
◎善大工業
http://www.zendai.co.jp/

日本工学院専門学校
テクノロジーカレッジ
機械設計科
教師:斎藤 雅典

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