佐藤琴海さん
声優・演劇科2年(2022年12月現在)
「喜び」と「感動」を年間300万人以上の観客に届けている劇団四季。その一般職に声優・演劇科の佐藤琴海さんが合格しました。俳優志望だった佐藤さんが、劇場運営の仕事を志した理由と面接の場で体験したことを聞きました。
また、自らも劇団四季の俳優として10年間にわたり数多くの作品に出演した声優・演劇科の長谷川浩司科長に、佐藤さんを新たな道へと導いた日本工学院の声優・演劇科ならではの教育について語ってもらいました。
小学校2年の時に、初めて「ライオンキング」を観たことが、私が俳優を志すきっかけになりました。俳優さんたちがキラキラ光って、とてもまぶしかったのを今でもはっきりと覚えています。劇団四季の舞台は、私の原体験なのです。でも、高校で進路を決める時には、保育の仕事と芸能関係のどちらに進むか迷いました。最終的にはミュージカルが与えてくれた感動が忘れられずに、日本工学院に入学して俳優をめざそうと決心しました。
日本工学院を志望したのも、劇団四季出身の先生がいたからです。大好きなミュージカルに関わりたいという一心でした。観劇実習でさまざまな舞台を観るうちに、公演を裏方として支えるスタッフの仕事にも興味を感じるようになりました。音響や照明など、劇団四季のスタッフについて調べていたところ、科長の長谷川先生が教えてくださったのが、劇場内でお客様の対応をするクルーという仕事です。劇場に行った時に見ていると、劇団四季のクルーの方々はとても速く、適切に動いていてレベルの高さを感じました。裏方として舞台を支える姿に憧れたことが、クルーに応募した動機です。
劇団四季のクルー募集は春と秋の年2回です。面接で選考され、合格すると各劇場に研修生として配属、半年ほどの研修期間を終えた後に正式にクルーとして採用されます。私がクルー志望を決めたのは5月だったので、春の採用面接を受けるまではほとんど時間がありません。授業が終わった後に長谷川先生からさまざまなパターンの模擬面接を受けたことで自信がつきました。
面接を受けて印象的だったのは、「今までの人生の中で人間関係で一番苦労したことを教えてください」という質問です。私は吹奏楽部への推薦で高校に進学したので、1年生からレギュラーメンバーに選ばれていました。でも、先輩たちの中には、それを快く思わない人もいたのです。私は先輩に認めてもらうために、朝錬に一番乗りするなど人一倍練習するようにしました。その後、先輩とも少しずつ打ち解けて、応援してもらえるようになった経験をお話ししました。面接官の方は、クルーはいろいろなお客様と関わるから、辛いことがあってもそれを乗り越える力が求められるとおっしゃっていました。
面接から2週間後に合格の通知が届き、憧れの劇団四季で働けることが決まりました。本当にうれしかったですね。後から聞いた話では、とりつくろわず素直に話したことが好印象だったそうです。7月からインターンシップで週に3日、クルーとして劇場で働いています。先輩方はみんな優しくて、和気あいあいとした雰囲気の中で仕事を学びながら、少しずつ成長を実感しています。クルーの空気がお客様に伝わるから、舞台を楽しんでいただくためには、自分たちが楽しく働くことが何よりも大切だという先輩の言葉が、私の信条です。
私は結果として俳優の道は選びませんでしたが、声優・演劇科で学んだことで舞台に立つ俳優の気持ちがわかるようになりました。それはクルーという仕事をするうえでも、大いに役立っています。また、日本工学院には全国各地から学生が集まるので、さまざまな個性や価値観を持った仲間たちと過ごした経験が、幅広い世代のお客様と関わるなかで生きています。私が劇団四季で働くという夢をかなえられたのは、先生方の熱心な指導と支えてくれた家族や仲間たちのおかげです。これから夢に挑む後輩たちも、自分の好きなことを大切にして頑張ってほしいと思います。
当学科では近年、学科のメソッドを見直しました。それまでのやり方が古かったわけではありませんが、多様性に欠けていて時代のニーズに応えきれていない点もあったのです。たとえば、以前は発声の練習法は一つしか教えていませんでした。今は複数のバージョンを試して、学生が自分に合う方法を選べるようにしています。
さらに、劇団四季やホリプロ、東宝芸能といった業界大手との関係を強化して、講師陣も若返りをはかりました。学生と先生との敷居をできるだけ低くして、コミュニケーションしやすい環境をつくるように配慮しています。その結果、授業が終わった後に職員室に行って質問したり、稽古場で指導を受けたりする学生が増えました。また、学生が学んだことをノートに書いて提出し、先生が赤字を入れて返す取り組みも実施し、エントリーシートに志望動機や自己PRを書く練習として効果を発揮しています。こうして学生一人ひとりに寄り添った指導ができるのも、担任制をとっている日本工学院の強みを生かしているからです。
佐藤さんは俳優からクルーへと志望を替えましたが、ずっと憧れていた劇団四季に関わる仕事をしたいという夢を実現できました。ただひたすら1本の道をめざす前に、選択肢を広げてみるのも大切なことです。そこに今まで気づかなかったチャンスを見出せるかもしれません。
私自身も、大学4年生のときに演劇からミュージカルへ志望を変えたため、何もわからない状態で劇団四季に入団して苦労しました。いま、やりすぎではないかと評されるほど親身になって指導するのは、かつての自分がそのように教えてほしかったという思いがあるからです。夢はいつでも変えられます。そして、そこに至る道は一つではありません。視野を広くすれば、新しい未来の可能性が広がるでしょう。それを示すのも、私たちの役割だと考えています。
佐藤さんは周りのことをすごく気づかうタイプなので、クルーとしての資質を十分に持っています。ただ、劇場ではいろいろなお客様に対応するため、メンタルを崩さないように気をつけてください。将来的に運営スタッフとして劇団に貢献できるように経験を積んでほしいですね。
◎声優・演劇科
https://www.neec.ac.jp/department/creators/actor/
日本工学院 クリエイターズカレッジ
声優・演劇科 科長
長谷川浩司