今、私たちは毎日、SNSやメール、webサービスなどインターネットをたくさん利用して生活をしています。もちろんそれだけでなく経済やさまざまな社会活動、あらゆるものがインターネットという社会基盤(インフラ)によって支えられていると言っても過言ではありません。このインターネットに依存した私たちの社会には、たくさんの利点があるとともに、個人情報の漏洩や、機密情報などが盗まれたりシステムが壊されるサイバー攻撃など、さまざまなリスクも存在します。そして個人個人がネット上に溢れる情報を扱うためには、情報リテラシー(情報を適切に判断し、情報を通じて決定を下す能力)が必要となります。
ITカレッジではそんな情報リテラシーの重要性を大切に考え、サイバーセキュリティのトップ企業である株式会社ラックによるオンライン講義を開催。インターネット初期からセキュリティに携わり、つねに先端の技術と情報を駆使してネットの安全を守ってきたプロによる講義によって、情報化時代を生き抜くための技術や知恵を学ぶことができました。
講師:株式会社ラック サイバー・グリッド・ジャパン副GM 吉岡良平氏
私たちは株式会社ラック内のサイバー・グリッド・ジャパンという企業内研究所のICT利用環境啓発支援室に所属し、サイバーセキュリティをもっとみなさんに意識してもらうための活動をしています。サイバーセキュリティというと、大手の企業や国の機関が情報の漏洩を強固に守っていくイメージがありますが、小さなお子さんからお年寄りまで、誰もがスマホやPCで情報を扱っている現在では、みなさんにとっても身近でとても大事なことになっています。一人ひとりがインターネットの使い方をしっかりと理解していないと、個人情報の漏洩や、サイバー攻撃による端末の乗っ取りなどを受ける可能性も大きく、またさまざまなトラブルの元になってしまいます。 |
現在、私たちの周りで起きている『インターネットをめぐるトラブル』には下記のようにさまざまなものがあります。
SNS利用犯罪 … SNS上で知り合った人から受ける児童誘因、誘拐、児童ポルノ、暴行、殺人
フェイクニュース … 間違った情報や書き込みとそれを信じたことで生じるトラブルや拡散
オンライン詐欺 … 人に相談できないことを逆手にとった詐欺や個人情報の不正な取得
依存と健康被害 … ゲームや動画の視聴、友達とのメッセージ交換がやめられず、依存や健康被害
課金トラブル … ゲーム課金や通販での買い物が止まらない。親のクレジットカードの無断利用
誹謗中傷 … 友だちや有名人のちょっとしたミスや言葉のすれ違いを強く非難する投稿
そしてインターネットによって私たちが陥る危険には2つのタイプがあります。一つは自分が危険な目に遭うこと(被害者になる)で、誹謗中傷や依存、有害情報、なりすまし、詐欺、個人情報搾取などがあります。一方、自分が人を傷つけること(加害者になる)もあるのです。これは故意にではなくても、軽い気持ちでインターネット上に書き込んだことが、誹謗中傷や炎上、権利侵害、情報漏洩、不正アクセスなどに繋がり、他人を傷つけたり、損害を与えてしまい訴訟問題になることもあります。
インターネットは情報の宝庫で、わからないことはなんでも調べることができますが、全てが正しい情報とは限りません。間違った情報(フェイクニュースなど)もたくさん存在し、また意図的に間違った情報を流している場合さえあり、それを鵜呑みにして拡散してしまう人達もいます。そのためネット上の情報を扱うときには、きちんとその真贋を確かめなくてはなりません。情報を適切に判断し、必要に応じて発信したり実際に利用する能力、情報リテラシー能力が必要となるのです。
かつて放送局や新聞社が行なってきた情報発信は、今や手のひらの中のスマホひとつで、個人がいつどこでも自由にできるようになりました。しかし情報を発信するからには、私たち一人ひとりも放送局や新聞社と同じように、責任を背負わなければならないのです。
また、インターネットには、世界中のいろいろな民族、立場、人種、宗教、主義の人が同時に存在し、時間、距離、国境も関係なく相手とやりとりすることができます。さらにAIの進化により、翻訳機能が便利で正確になったことで言葉の壁もなくなり、インターネットはまさに世界中の人々が集まる、公共の場所となっています。そのためインターネットを利用する際は、いろいろな立場を考え、マナーやルールを守る必要があるのです。
みなさんが普段使っているSNSやメッセージは、文章や写真を入力し、送信ボタンを押さなければ、書いたものが外へ出て行くことはありません。インターネットというのは、送信ボタンを押しさえすれば、相手のところに届けることができます。これは送信ボタンを押した瞬間に、コピーが作られ、そのコピーが相手のところに送られているということです。
Twitterやたくさんの人が見ている空間に情報を送れば、それを見ている人の数だけコピーが作成されているということで、発信者は一度発信したらコピーを持っている人たちをコントロールできません。そのため、コピーを持っている人はまたそのコピーを別な人に送ることも可能です。
インターネットはつねに拡散することしかできないツールです。たとえば、嘘や悪口を書いた後でトラブルになった時、「こんなこと書かなければよかったと」思っても、もうそれを回収することはできません。そういうトラブルにならないようにみなさんがするべきことは送信ボタンを押す前(コピーを作る前)に、自分のメッセージや送ろうとしている写真などをもう一度確認するということです。このたった一回のチャンスを大事にしないと取り返しのつかないトラブルを引き起こしたり、大きな損害を会社などに与えてしまったりすることになってしまいます。だからこそ、もう一度インターネットで情報が拡散されていく仕組みというのを頭に入れ、ゆっくりしっかりと確認してから発信するようにしましょう。
直接相手と話すときは、顔の表情や身振り手振りを交えてきちんと伝わる言葉でも、書き込む文章ではまったく違う意味に捉えられ、トラブルの元になる場合があります。「あの人、ヤバい」「なんでくるの」「かわいくない」など、受け手によって良い意味にも悪い意味にも変わってしまうことが多々あります。LINEやTwitterなどショートセンテンスで情報のやり取りをすると、そのニュアンスが非常に伝わりにくくなるので要注意です。
その他にもわざと相手を傷つけるような言葉をつい書いてしまう『言葉の暴力』や、言葉や文章の書き方を間違える『言葉足らず』、また相手の立場などを考えずに無意識に言葉を発することなどには気を付けなくてはなりません。インターネット上では、文字だけでいかに情報を伝え切れるかという能力が、非常に大きく要求されてくることになります。
インターネットの世界は常に進化し続けています。みなさんが社会に出る頃には、もっともっとインターネットの環境は進化しているでしょう。これからさらに進化していくインターネットのキーワードは5。今、私たちを取り巻くインターネットにはいくつかの5が存在しています。
携帯電話でも使われている第5世代移動通信システム・5Gは、高速・大容量、たくさんの端末を繋ぐことができる新しい通信の仕組みで、離れた機器を手元で操作したり、高精細な画像や動画をやりとりすることができます。5Gは遠隔操作による手術や、自動運転車の実現も可能な新しい通信環境です。
2つめは、政府が提唱する新しい社会のあり方を示すSociety5.0。Society5.0はAIやロボットの力を借りて、我々人間がより快適に活力に満ちた生活を送ることができる社会。これまでの現実世界に加えて、仮想空間との融合で豊かな社会を実現していこうとしているものです。
もうひとつは、米国防総省が定義する、第5の戦場。これは陸・海・空・宇宙空間に次いでインターネットなどのサイバー空間が5番目の戦場であると位置付けたものです。インターネットに繋がったパソコン一台あれば、相手の生活や経済を混乱させることができ、たった一人でも戦争を起こすことが可能です。そのようなサイバー攻撃から私たちの生活を守るのがサイバーセキュリティなのです。
インターネットによってもたらされるニューノーマルの時代は、ICT技術が利用され、5Gによる高速・低遅延のメリットを生かし、テレワークやリモートワークなどによって、脱東京、脱都市という働き方が生まれて来るなど、新しい社会が形成されつつあります。しかし、こうようなメリットを逆手にとって、サイバー攻撃が激化したり、サイバー犯罪が増加するとも言えます。また、ビジネスやコミュニケーションのあり方も新しく変化し、オンライン時代のルールやマナーがより必要になるとともに、私たちの意識改革も大切になります。みなさんもぜひ、サイバーセキュリティについて学び、情報リテラシーを身につけて、この『5の時代』で活躍していきましょう。
セキュリティソリューションとシステムインテグレーションを提供する
リーディングカンパニー 株式会社 ラック
システムインテグレーション事業とサイバーセキュリティ事業の両軸で、ITシステムやビジネスの発展を支える業界のトップ企業。1986年の創業以来、独立系ITベンダーとして30年以上の歴史と実績を持ち、またセキュリティ対策のリーディングカンパニーとして、セキュリティ体制の構築・運用支援、24時間365日のセキュリティ監視、緊急対応まで、トータルソリューションを提供している。 株式会社LAC |
ラックの企業内サイバーセキュリティ研究機関
サイバー・グリッド・ジャパン
サイバー・グリッド・ジャパンは、サイバー攻撃とそれによる被害発生を防ぐため、セキュリティ専門家を参集した株式会社ラックの企業内研究部門。新たなICTを利活用する上でのセキュリティ確保やサイバー攻撃に関連する技術の研究、ナショナルセキュリティ事情に関する調査研究、スレットインテリジェンス(脅威情報)やIoTに関する技術開発、そして利用者啓発と人材育成に取り組み、単独の取り組みにとどまらず、他組織・機関と連携した活動を行なっている。
◎ネットワークセキュリティ科
https://www.neec.ac.jp/department/it/network/