声優・演劇科2年
土池悠介さん(2020年3月現在)
日本工学院の声優・演劇科では、オーディションに挑戦する学生をきめ細かくサポートしています。第一線で活躍する声優・俳優をはじめとする講師のアドバイスにより、多くの学生がオーディションに合格しデビューのチャンスをつかんできました。2019年8月に開催された第13回「81オーディション」においてグランプリを受賞した声優・演劇科2年(当時)土池悠介さんも、その一人です。応募者2,056名という難関を突破して頂点に輝いた土池さんに、日々の努力や合格をめざして心がけていたことについてお話を聞きました。
声優という職業があることを意識したのは、中学2年の時。友人に薦められて読んだ「ソード・アート・オンライン(SAO)」というライトノベルが面白かったので、同時期に放映していたアニメを見て声優さんの演技に大きな感動を受けました。声の力で人に感動を与えられるってすごい、そんなことができたらいいなと思ったことが声優をめざすきっかけです。親には声優になりたいと言いにくかったので、アルバイトで稼いだお金でボイストレーニングのスクールに通って発声を勉強しました。実家は兵庫県なので、声優をめざすなら大阪の学校という選択肢もあったのですが、東京の方が多くのチャンスがあるはずと考えて上京を決意。親を連れて東京に来て、志望する日本工学院を見学した後で一緒に秋葉原に行きました。アニメ関連のショップやイベントで賑わう街を見た親は「こんなに活気のある業界なら、すぐに廃れることはないだろう。この道で食えるようにがんばれるなら、やってみなさい」と言ってくれたのです。親に迷惑をかけたくなかったので、新聞奨学生として働きながら日本工学院へ通うことを決めていました。新聞奨学生を支援してくれる制度があることも、日本工学院を選んだ理由の一つです。
学校の内外で行われるオーディションの告知は見ていましたが、夕刊の配達があるため、なかなか応募する機会がありません。最初に受けたオーディションでは1次選考で落ちてしまったのですが、一緒に受けた同じクラスの友人が準グランプリに入賞しました。友人の受賞を喜びながらも、くやしいと思う気持ちが大きくて、追いつき追い越そうと思って受けたのが第13回81オーディションです。1次は書類と声のサンプルデータを送るだけですが、2次からは会場に行って審査員の方々の前で演技をします。初めての経験だったので、服装もどうしていいかわかりません。そこで、指導を受けている第一線で活躍されている現役声優の先生からアドバイスをいただき、さわやかな感じのコーディネートで2次選考に臨みました。2,000人以上の1次応募者のうち、2次選考に進んだのは200人。審査員の方々が並んでいる前で演技をするのは、とても緊張しました。2週間後の最終審査に残ったのは21名で、与えられた台本を二人一組で演じた後に長めの自己PRをするのが課題です。自己PRでは、特技として授業で習った殺陣を披露しました。殺陣をやったのは私だけだったので、審査員への印象は強かったと思います。
質疑応答では審査員の方から、こんな感じでやってみてという要望に応えて即興で演じる場面があり、アドリブの力を試されているのかなと感じました。私はチャラ男風にやってと言われて戸惑いましたが、先輩が卒業公演で演じていたチャラ男風のキャラクターを真似てなんとか乗り切りました。舞台は何でも観ておくと、いざという時に役立つものですね。
自分がグランプリに選ばれた理由については、不意の要求に素早く応える対応力が評価されたのだと思っています。私より声のいい人やルックスのいい人も大勢いましたが、言われたことに対して自分なりの答えを返す力が重視されていたように感じました。
もう一つ大事だと思ったのは、審査を待っている時の態度です。入賞した人は待っている間も台本に目を通すなど落ち着いて過ごしていましたが、気持ちが舞い上がって隣に話しかけていた人は選ばれませんでした。審査においては、常に誰かに見られているのを意識して気を抜かないほうがいいでしょう。オーディションで好印象を与えたいなら、普段から礼儀正しく人と接するように心がけることが必要です。私は剣道をやっていましたし、授業で礼儀作法の大切さを教わっていたので、無意識のうちに相手に失礼のないように振る舞えたのかもしれません。
これから声優を志す後輩のみなさんに伝えておきたいのは、それなりの覚悟がないならやめたほうがいいということです。私は兵庫から上京する時に、在学中にチャンスをつかめなかったら、あきらめて帰ろうと思っていました。絶対に声優の道で生きていくという想いを持って、一日も無駄にできないと頑張ってきたという自負があります。でも、今回のグランプリは自分一人の力で勝ち取れたわけではありません。声優・演劇科の先生方は、演技や礼儀作法だけでなく、オーディションに提出する書類の自己PRや特技欄の書き方も指導してくださいました。仲間であり、ライバルでもある友人たちは髪型のセットや、審査に着ていく服選びを手伝ってくれました。自分を支えてくれるたくさんの人たちに出会えたことが、日本工学院で得た最大の収穫です。そうした人々に囲まれながら真摯な姿勢で演技に向き合い、成長できる環境で過ごせたことがグランプリ受賞に繋がっているのだと思います。
グランプリを受賞したといっても、今はまだスタート地点に立ったばかり。もっと実力をつけて、声優だけではなく舞台に立って役者としても活躍できるようになることが目標です。
土池さんは新聞配達を続けながら2年間学校に通った強い意志とガッツの持ち主です。入学当時から、しっかりと自分の進むべき道が見えている印象を受けました。時間的な制約がある中で、機会を逃さずにチャレンジしていく意欲の強さは、オーディションにおいても発揮されたと思います。ときどき自分は才能があるから、いつか誰かが認めてくれると思っている人がいますが、それは大きな間違いです。自分から進んで観てもらおう、聴いてもらおうという気持ちを伝えなければ、誰も注目してくれません。この子は何か持っていると思わせるような、一昔前の言い方をすればギラギラしたところに人は魅力を感じるからです。
土池さんがいうように、声優は声質や演技力だけでなく柔軟な対応力が求められます。自分の中の引き出しを増やして対応力を高めるには、まず人に興味を持つことが大切です。今の若い人たちは直に話すよりSNSがコミュニケーションの主流になっている傾向があります。たとえば「あいつ来たぜ」という文字がラインで届いたとしても、それだけでは喜んでいるのか、がっかりしているのかは伝わりません。人は喜怒哀楽を表情や声で表現するべきなのです。メールやラインではなく、その場で相手に感情を伝えることが演技の糧になります。
これから声優をめざす人は、喜怒哀楽を表現するために日常生活で感性を磨くようにしてください。音楽でも、スポーツでも、自分の得意な勉強でもいい。一つのことに打ち込むことが自分自身の感受性と豊かな個性を育んでくれるでしょう。声優・演劇科では、学生一人ひとりの個性を伸ばせるように、親身な指導を行っています。
◎声優・演劇科
https://www.neec.ac.jp/department/creators/actor
日本工学院 クリエイターズカレッジ
声優・演劇科
科長 吉村先生