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シリンダーで世界トップクラスのシェアを誇る 南武 野村社長による特別講義を実施

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2018年11月06日

南武 野村社長特別講義 「大田ものづくり学2018」

「大田ものづくり学2018」を開催中

東京都大田区は約3,500もの工場が集まる、世界でも類を見ない「ものづくりのまち」です。

それぞれの工場が「削る」「磨く」「メッキする」など、磨き抜かれた匠の技で競い合い、連携しながら新たな「ものづくり」にチャレンジする姿は、「下町ロケット」など小説やドラマのモデルにもなっています。
日本工学院は1947年に大田区蒲田に電子・工学分野の技術者養成校として開校して以来、そうした「ものづくり」の息吹を受けながら地域と共に歩んできました。2015年からはテクノロジーカレッジの特別講義として「大田ものづくり学」を開講しています。4年目となる「大田ものづくり学2018」では、現場の最前線で活躍する経営者の方々をはじめ10名の講師を招いて開催中。工場見学など教室外での体験や見聞も交えながら、匠の技の奥深さや「ものづくり」の面白さ、技術者の心構えについて学ぶアクティブなカリキュラムを実施しています。


正解がない無法地帯の中でも
自分で考え、判断する力を磨いてほしい。

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株式会社南武
代表取締役 野村伯英氏

過酷な使用環境に耐えるシリンダーで世界トップクラスのシェアを誇る

南武は、1955年に創業した日本初の油圧シリンダーメーカーです。

今回お招きした講師は、三代目代表取締役として南武のグローバル化を推進する野村伯英さん。経済産業省から「グローバルニッチトップ企業100選」に選ばれ、東京商工会議所の「勇気ある経営大賞」を受賞するなど、その卓越した経営力と先見性、リスクを恐れぬ行動力で知られるカリスマ的な経営者です。講義にあたって、野村さんが選んだテーマは「これから社会へ出るみなさんへ」。
IoTやAIにより、働き方が大きく変わりつつある状況のなかで、何を指針として、どんな力を磨けばいいのか。野村さんの言葉をしっかりと胸に刻んでください。

南武本社

南武本社

南武がどんな製品を作って世界に認められているのか?

まず、「南武がどんな製品を作って世界に認められているのか?」についての話です。南武の柱となる製品は、国内シェアの7~8割を占める自動車メーカー向け金型用中子抜きシリンダーと、アジア、北米でシェア7割を誇る製鉄所向けのロータリジョイント、ロータリシリンダーの2つ。これらの製品に共通するのは、大量生産が可能な規格品ではなく、過酷な環境で使われる一品もので、しかも短納期だということ。金型用中子抜きシリンダーは、溶解したアルミや樹脂を金型に注入して作るダイカスト製品向けで、高い耐熱性を要求されます。一方、ロータリジョイント・ロータリシリンダーは、製鉄所で薄く加工された鉄の板を巻き取るコイルと呼ばれる芯を抜くときに使う装置です。アルミの溶解温度は約700℃。粉塵が舞い、絶えず振動にさらされるような過酷な環境に耐える製品を作るには、南武の優れた技術と経験をもってしても、簡単なことではありません。しかし、だからこそチャンスがあると野村さんは言います。

■中子抜きシリンダーの動作モデル

複雑な形状の成型品を作るときに油圧シリンダーで金型内に中子を入れ、アルミや樹脂を射出します。冷えて固まった後に中子を抜いて金型を外します。

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■世界中の製鉄所で使われている南武のロータリジョイント、ロータリシリンダー

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油圧シリンダーとは?

クレーンやパワーショベルなど建設機械の駆動機構や車のブレーキ、水門のゲートを動かしているのは、油圧という動力方式です。シリンダーの中にあるピストンを油の圧力で動かして動力を伝えるアナログな仕組ですが、モーターに比べて小さな装置で大きな力を発揮できることから、車のジャッキをはじめ日常のさまざまな場面でも利用されています。油圧シリンダーとは、油にかけられた圧力を動力に変換する装置のことです。

大切なのは「ものづくり」の品質を活かす
ソフトやサービスを開発すること。

南武は1963年に火災で工場が全焼し、一度倒産した後に再起を果たしました。それをきっかけに、現在の主力である2つの製品分野に特化して技術を磨き実績を重ねてきた結果が、今の高い評価に繋がっているのです。
「製鉄所という設備は一度建てたら何十年も使い続けるものだから、市場はとても狭い。でも、そのニッチなところに何十年もかけて取り組んでいる当社は強い。もし、他社が当社の製品をコピーしようとしても、全く同じものは作れないでしょう。故障やトラブルが起きれば、大損害を被ってしまうので、お客様は多少高くても信頼できる私たちの製品を選んでくださいます。当社は従業員数約240人の小さな会社ですが、国内全ての自動車メーカーのほか、大手の製鉄機械・設備の製造企業を通じて世界中の製鉄所へ製品を納品しているグローバルな会社です。タイや中国に工場を持ち、アメリカには、お客様にメンテナンスサービスを提供するパートナー企業があります」と語る野村さん。南武がグローバル企業として成長できた理由は、ニッチな市場に事業を集約したことに加えて、野村さんの「ものづくり」を超えたお客様第一の考え方にあります。

いいものを作りさえすれば
お客様に満足してもらえると思ってはいけません。

「大切なのは顧客満足です。ものづくりにこだわる余り、いいものを作りさえすればお客様に満足してもらえると思ってはいけません。ものを取り巻くさまざまなソフトやサービス、アドバイスを含めて、オンリーワンの満足を提供することを目指すべきです。日本の製造業は、ハード(もの)の品質だけで勝負しようとせずに、その良さを引き出すサービスを開発する必要があります。いくら高機能のスマホでも、便利なアプリがなければ使ってもらえないのと同じです」ものづくりだけに固執してはいけない、と持論を語る野村さん。そして、いよいよ講義は佳境に入ります。経営者や技術者でなくても、これから社会に出るみなさんにとって、避けては通れない課題と答えがそこにあります。

日本でも、世界でも、成功したいなら
人がやらないことをやる!

「今後、日本は少子高齢化が進み、国内の人口がどんどん減っていきます。2070年には現在の3分の1近くまで落ち込んでしまうでしょう。その一方で、世界全体で見れば、アジアとアフリカを中心に人口は増加し続けています。人口は、あらゆる産業の基盤となるものです。GDP(国内総生産)においても、日本は中国とインドに大差をつけられるのは間違いありません。企業が未来の日本で成長するためには、グローバル戦略は必然なのです」

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グローバルに活躍する人材に求められる資質とは?

南武の海外進出を指揮してきた野村さんは、グローバル化は西洋化することではない、と言います。グローバルに活躍する人材に求められる資質として上げたのは「人の意見に耳を傾け、共感できる力」、「自分なりの考えを持ち議論できる力」、「失敗を恐れず挑戦する力」、そして「メンタルのタフさ」です。そもそも南武が中国に進出したのは、2008年のリーマンショックで売上が半分に落ちてしまったことがきっかけでした。そこで大きなリスクを取ったからこそ、今の南武があるのです。野村さんは、元日産COOの志賀俊之氏の「実力以上の挑戦を続け、よく失敗もし、幾多の修羅場を乗り越えて来た人に、既設のレール上を真面目にただ長時間走っているだけの人は、絶対に勝てない!」という言葉を引用して、挑戦することの大切さを説きます。では、これから社会に出て、働くみなさんが、どんな力を身に付け、どんな心構えを持ってグローバルなステージに臨むべきなのでしょうか。

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積極的に質問する学生達

周囲で起こるあらゆる課題を自分の課題として主体的にとらえて強い情熱と責任をもって取り組む姿勢を持つこと。私はそれをオーナーシップと呼んでいます。

「テストで高得点を取るための暗記力や偏差値の高さは意味がありません。必要なのは、答えのない問題に直面した時に、自分なりに掘り下げて正解へとにじり寄っていく力です。そして、周囲で起こるあらゆる課題を自分の課題として主体的にとらえて強い情熱と責任をもって取り組む姿勢を持つこと。私はそれをオーナーシップと呼んでいます。経済が右肩上がりで成長していた時代は、先輩のやり方を真似すればよかった。でも、これからの時代は、正解のない視界不良の中で自分なりに考え、決断して方向を示す力が大切です。強いて言えば、無法地帯に強い人かな。当社には、日本工学院を卒業したみなさんの先輩が何人も働いていますが、みんな無法地帯への適応力を持っている。私の後任者としてタイ工場の社長を務めた吉富君は、いま取締役に就任して経営に関わっています。

また、タイ工場で設計の立上げを行った鈴木君は、コミュニケーションスキルが高くて、短期間で現地スタッフと話せるようになった。少し前に、このやり方はムダだから、このソフトを導入すれば3年でみんなの仕事量を半分に減らせますよ、と画期的な提案をしてくれたのも鈴木君でした。二人とも、今日同席されている斎藤先生の教え子です。来年も一人、日本工学院の卒業生が入社する予定なので、今から楽しみにしています。」

野村さんは、古今東西、成功するための要諦(大切なこと)は、「人がやらないことをやる」であると語ります。面倒で、手間がかかって、誰もやらないことだからこそ、お客様にその価値を認めてもらえるのです。それは、どんな仕事においても変わりません。「有志有途(志あるところに道は拓ける)」という座右の銘と共に、広い世界へ踏み出してほしいという野村さんの言葉で講義は幕を閉じました。

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製品に触ることも大切な経験となる

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野村氏を囲んで記念撮影

聴講の後で

野村氏が率いる南武は、火災で全てを失った後に再スタートし、過酷な環境で使用されるシリンダーの開発という「人のやらないこと」を事業のコアにして、世界的なシェアをもつグローバルな企業へ成長しました。技術だけに偏重せずメンテナンスやリユース(中古品の再利用)に取り組み、顧客満足度を高めてきたことが成功の要因です。そして、早くから海外市場に目を向けていたからこそ、今日の南武があります。
これから技術者として巣立っていくみなさんも、自分のつくるものを誰が、どこで、どう使うのかを常に意識してください。従来のやり方に対して問題意識をもって、より良い答えを見つけるように努力してください。正解のない中で考え判断する力こそが、今後ますますグローバル化が進む社会で、最も重要な資質なのです。その力を発揮して、「人のやらないこと」に挑んでほしいと思っています。


◎機械設計科
https://www.neec.ac.jp/department/technology/machine/
◎南武
http://www.nambu-cyl.co.jp/

日本工学院専門学校
テクノロジーカレッジ
機械設計科
教師:斎藤 雅典

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