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山寺宏一さん特別講演

進化するエンタテインメント業界の未来〜求められる存在であり続けるために~

山寺宏一さん特別講演山寺宏一さん特別講演

2021年12月12日、日本工学院専門学校(蒲田校)の片柳記念ホールで、山寺宏一さんによる特別講演『進化し続けるエンタテインメント業界の未来 〜求められる存在であり続けるために〜』が行われました。学生たちが将来クリエイターとしてエンタテインメント業界で求められる存在となるために、業界の第一人者である山寺宏一さんにお話をうかがい、これから活躍していくための糧とすることが目的です。受講者は、本校クリエイターズカレッジの学生たち約250名。山寺さんと親交の深い冨永みーな先生(声優/声優・演劇科講師)が司会進行役を務め、事前に学生たちから募集した質問に山寺さんが答える形式で行われました。

山寺 宏一さん

【プロフィール】
声優、俳優、タレント、ナレーター。アクロスエンタテインメント所属。宮城県塩竈市出身。
出演作は、〈アニメ〉『メガゾーン23』(中川真二役)、『それいけ!アンパンマン』(チーズ役、カバお役ほか)、『アラジン』(ジーニー役)、『新世紀エヴァンゲリオン』(加持リョウジ役)、『カウボーイビバップ』(スパイク・スピーゲル役)、『攻殻機動隊SAC』(トグサ役)、『かいけつゾロリ』(ゾロリ役)、『ルパン三世』(銭形警部[2代目]役)、『ドラゴンボール超』(ビルス役)、〈外画〉『マスク』(ジム・キャリー)、〈ゲーム〉『龍が如く4 伝説を継ぐもの』(秋山駿役)など多数。第38回ギャラクシー賞奨励賞(2000年)、第3回声優アワード富山敬賞(2009年)、ファミ通アワード2013キャラクターボイス賞(2013年)、第24回日本映画批評家大賞アニメーション声優賞(2015年)、第14回声優アワード外国映画・ドラマ賞(2020年)などの受賞歴がある。

山寺宏一さん


山寺宏一さん

冨永 みーな先生

【プロフィール】
声優。俳協(東京俳優生活協同組合)所属。広島県広島市出身。本校声優・演劇科講師。出演作は、〈アニメ〉『サザエさん』(磯野カツオ役)、『それいけ!アンパンマン』(ドキンちゃん役、ロールパンナ役ほか)、『機動警察パトレイバー』(泉野明役)、『北斗の拳』(リン役)、〈ナレーション〉『開運!なんでも鑑定団』など多数。

第3部

「表現者として」

Qustion 07

表現者としての武器

私は女性にしては低い声なのですが、高い声も出ます。音域は広いほうだと思いますが、
特徴がなくものまねなども得意ではありません。卒業後、芝居で生きていくことを考えると、
自分にこれといった武器がないのが悩みです。良い解決方法はないでしょうか?
山寺さんがものまねに挑戦したきっかけも教えてほしいです。
(声優・演劇科 学生)

山寺さん

山寺

ものまねに挑戦したきっかけは、小さい時から好きだったからです。テレビを見て真似たり、動物を真似たり。中学生ぐらいから学校の先生のものまねもしていましたね。ものまね番組がとにかく大好きで見ていて、人がものまねしているのを見るのも大好きで、声でいろんなことを表現することが好きだったんです。
質問にある「武器」ってどう思われますか?

冨永さん

冨永

山寺さん

山寺

いいんじゃないですかね。武器なんてなくたって。少しずつ手に入れていけば。そもそも自分の武器が何かなんてなかなかわからない。僕の場合、いろんな声が出せるのが武器なのかなとうっすら思っていたけど、それと演技がどう結びつくかは全然別なので。ものまねできたって演技ができなかったらどうしようもないですよ。声が似ていてものまねが上手いっていうのは、表面的なことだけだから。それは演技じゃない。それよりももっと大事なことって表現者にはあるわけですよ。

ただ、別にものまねは必要じゃないけれども、何かを模倣から得ようとすることは大事かな。この人のこれは魅力的だな、できるかな、やってみようかなって。僕が若手の頃、そんなに大した役をやっていなかったから、台本を持ち帰って、やりたい役を全部家でやっていました。「あれ、僕この人みたいにいけるかも」、「これはちょっと難しいな、こうかな」って、よくやっていましたね。
「武器」って、モノじゃなく「姿勢」なのかもしれないですね。

冨永さん

冨永

山寺さん

山寺

ああ、さすがですね。そうかもしれない。それが一番の最大の武器だね。学ぼうとする姿勢とか、何かに向かおうとする姿勢。あと感性だよね。なんといってもこの仕事、センスってすごく大事。それをどう磨けばいいかはまったくわからないけど、センスも磨かれると思う。いいものを見ていたら。

僕はよく声優志望の人に言うんです、「アニメばっかり見ていちゃダメだよ」って。アニメ好きの人は憧れがあるからどうしてもいっぱい見たいだろうけど、やっぱりそればかり見ていると、話し方の表面だけになるのかなあって。例えば日本の若手俳優にも上手い人がいっぱいいますよね。この人どんな芝居してるんだ、みたいな。本当に何かが憑依したとしか思えないみたいな。そういう鳥肌が立つような演技から学んで、なんだろうこれって。そうやって、いろんなセンスを磨く。
センスっていうと、お洋服のセンスとかいうじゃないですか。これは学校の授業で話したこともあるんですけど、センスって心配りなんだそうですね、英語で言うと。ということは、洋服のセンスがいい人って、やっぱり自分自身の洋服に気を配っているということなんですね。そうすると、お芝居のセンスというのもお芝居に気を配るということが大事なんじゃないかなと思うんですよ。それで山寺さんがおっしゃるように、アニメーションが好きだからってアニメーションばっかり見るよりは、違う角度からも見られるように。

冨永さん

冨永

山寺さん

山寺

そうですね。違うアプローチからいろいろ見ると、なぜ彼はそういう演技をみんなから支持されているのか、本当の答えは違う方向から出る可能性もあるなあって。
さきほどの質問は声優志望の学生からのものでしたが、マンガ家を志望する学生にも同じことが言えますよね。マンガって本当に多方向からいろんな知識がないと作品をつくれないというか、多岐に渡る知識が自分の表現として出てくるみたいなところがありますよね。

冨永さん

冨永

山寺さん

山寺

日本のマンガは特にそうですね。声優の先輩たちの中には若い頃に日本の古典芸能をものすごく学んでいる方が何人もいらっしゃって、そういうアプローチからこの演技って生まれているんだなと思うことがいっぱいあります。僕自身、落研時代に落語から学んだことが多いです。知識もそうだし、話芸という意味では声で表現するということも。そういう意味では、声優になりたいんだったら落語くらい聞かなくてどうするってものすごく思います。

古今亭志ん朝という60 代前半で亡くなってしまった落語家がいるんですが、学生時代、聞いた瞬間にその人に恋をしてしまって、実は未だに古今亭志ん朝の落語を聞き続けているんです。いま聞いても、このテンポでやってたのかというくらい、とんでもないテンポと滑舌の良さと華のある表現力で。一人ひとりの人物描写がすごい。それで、僕はついこのあいだ思ったんですよ、声優界の古今亭志ん朝になりたいって。いま初めて言いますけど。

あっ、あった、僕はいままで明確な目標とかよくわからないでやってきたんですけど、いま目標ができました。僕が10 代から憧れていた志ん朝に対して思っていたことを、みんなに思ってほしいなあって。そのために、僕はもう志ん朝が亡くなった年齢に近づいてきたんだけど、ここから長生きして、志ん朝ができなかった枯れた芸みたいなものもやれたらなあって思います。まだまだ全然志ん朝の30 代の落語にも追いつかないような僕の実績ですけども。
なんかいまここで山寺さんから出たコトバが、聞いているみなさんにとってすごいプレゼントのようですね。だって、みなさんに何かを伝えたいという思いから生まれた目標じゃないですか。私、感動しちゃった。

冨永さん

冨永

山寺さん

山寺

だから、いま「武器」がなくても全然大丈夫だし、その姿勢を失っちゃったらダメだし、情熱とか、こうなりたいとか、ここまで行きたいとかいうことを失わないで、ちゃんとスキルもセンスも磨く努力をしていればいいと思います。何歳になってもね。
本当にこのお仕事していて思うのは、周りの先輩方が舞台をやったり歌をやったり、いろんな方向で頑張っているから、私もなんか一つくらい頑張らなきゃって。

冨永さん

冨永

山寺さん

山寺

「武器」って簡単に手に入るものではないかもしれないけど、やっていたことは無駄にならない。僕自身、小さい劇場でいろいろ試行錯誤しながらやった経験は、全然無駄になってないと思うんですね。自分を信じて、自分がいいと思ったものに対して一生懸命やっていれば、それが絶対いつか「武器」になってくると思います。

なんか今の若い人たちって、SNS の発信力がすごかったり、ラップができたり、いろんなスキルがすごいなって思うわけですよ。でも、小劇場から上がってきた人はそんなにいないなあって思うと、小劇場とかの経験も同時に積んでおくとより強いかもしれない。いまどきの感性を持ちながらそういうこともいろいろやっていると、「なんかちょっと今までと違う若手が出てきたな」と思われるんじゃないかと思います。
たしかに「武器」って、オリジナルな感じを自分で作っていくみたいな。人と一緒じゃなくていい、むしろ人と違うことをやってみるということかもしれないですね。

冨永さん

冨永

山寺さん対談風景

Qustion 08

求められる存在

求められ続ける存在になるために大切なこととは何でしょうか。
クリエイターズカレッジ 全学生

山寺さん

山寺

なんでしょうね、僕自身もよくわかりませんが、絶えず求められ続ける存在になりたいって思うことじゃないでしょうか。求められ続けるためにはどうしたらいいかを自分で追求することじゃないですかね。誰も教えてくれないと思いますよ、本当の答えは。本当の答えはないかもしれないから。

ただ思うのは、声優はお仕事をいただく側なので、いただくためにはどうしたらいいか。僕が心がけているのは、常に自分を磨くことと、もしお仕事をいただいたらそれ以上のものをお返しするように努力するということ。こんなものでいいかと絶対に思わないっていうことです。プロになってからは常にそうですね。現場ではいちいち「山寺さんにお願いしてよかったです」とは言ってくれないですけど、その空気は感じたい。新しい現場では特に。レギュラーで何十年もやっている現場でも、それに慣れちゃいけないなあって思うんですよ。
プロになると、ある時から周りは褒めててくれなくなります。できて当たり前、120%やって当たり前みたいなところがあるので。今日、いろんなお話をうかがって、何か一つでもみんなが感じてくれたらいいなという、山寺さんのピュアな気持ちが伝わりました。

冨永さん

冨永

山寺さん

山寺

僕は嫌われるのがとにかく怖いんですよ。褒められたくてしょうがないんです。いつでも褒められたくてしょうがない。だから新しい仕事で「いよいよこの役が来たか」と思ってやるじゃないですか。それで相手の反応が薄いと「えー」って思うんですよ。「山寺さんいいですねー」って褒めコトバが欲しい。一回褒めてくれたら安心するから。その後に100 回ダメ出しされても耐えるから(笑)。褒められたいがために頑張っているのかもしれません。自分の存在を認めて欲しいんですよ。生きているから。

いくつになっても「今も頑張ってるね、この歳なのに」って言われたい。例えば、芸術で何か素晴らしい器を作って、「この中に僕の宇宙があるので、評価は僕が死んでからでいいんです」っていう風には僕はなれない。やったものでみなさんが喜んで元気になってくれる。その作品の一員になりたい。それだけしかないんです。

対談風景

※講演の一部をテキスト用に再編集しています。