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山寺宏一さん特別講義

声優 山寺宏一のルーツ 〜好きなことを仕事に〜

山寺宏一さん特別講義山寺宏一さん特別講義

2022年11月27日、日本工学院専門学校(蒲田校)の片柳記念ホールで、山寺宏一さんによる特別講義『声優 山寺宏一のルーツ ~好きなことを仕事に~』が行われました。山寺さんの特別講義は、2021年12月に続いて2年連続の開催。学生たちが好きなことを仕事にするためのヒントを、業界の第一人者である山寺宏一さんのお話から感じ取り、これから活躍していくための糧とすることが目的です。受講者は、本校クリエイターズカレッジの学生たち約400名。山寺さんと親交の深い冨永みーな先生(声優/声優・演劇科講師)が司会進行役を務め、事前に学生たちから募集した質問に山寺さんが答える形式で行われました。

山寺 宏一さん

【プロフィール】
声優、俳優、タレント、ナレーター。アクロスエンタテインメント所属。宮城県塩竈市出身。
出演作は、〈アニメ〉『メガゾーン23』(中川真二役)、『それいけ!アンパンマン』(チーズ役、カバお役ほか)、『アラジン』(ジーニー役)、『新世紀エヴァンゲリオン』(加持リョウジ役)、『カウボーイビバップ』(スパイク・スピーゲル役)、『攻殻機動隊SAC』(トグサ役)、『かいけつゾロリ』(ゾロリ役)、『ルパン三世』(銭形警部[2代目]役)、『ドラゴンボール超』(ビルス役)、〈外画〉『マスク』(ジム・キャリー)、〈ゲーム〉『龍が如く4 伝説を継ぐもの』(秋山駿役)など多数。第38回ギャラクシー賞奨励賞(2000年)、第3回声優アワード富山敬賞(2009年)、ファミ通アワード2013キャラクターボイス賞(2013年)、第24回日本映画批評家大賞アニメーション声優賞(2015年)、第14回声優アワード外国映画・ドラマ賞(2020年)などの受賞歴がある。

山寺宏一さん


山寺宏一さん

冨永 みーな先生

【プロフィール】
声優。俳協(東京俳優生活協同組合)所属。広島県広島市出身。本校声優・演劇科講師。出演作は、〈アニメ〉『サザエさん』(磯野カツオ役)、『それいけ!アンパンマン』(ドキンちゃん役、ロールパンナ役ほか)、『機動警察パトレイバー』(泉野明役)、『北斗の拳』(リン役)、〈ナレーション〉『開運!なんでも鑑定団』など多数。

「声優の仕事について」

Qustion 05

役作り

音響監督の方にアフレコを見てもらったとき、自分の考えてきた演技表現と音響監督の求める演技が違い、
柔軟に対応できなかった経験があります。山寺さんはアフレコの際、どこまで役作りをして収録に臨んでいますか?
また、自分の考えと違う要求が来たときにどのように対応していますか?

山寺さん

山寺

はい。現場に行ってみたら方向性が違うというのは、よくあることです。声優の仕事に限らず、舞台や朗読劇でもしょっちゅうあります。これは、音響監督やその他のスタッフの方がどういう人かにもよりますけど、そういうふうに言ってもらえるのはありがたいことですね。
何も言われないこともありますからね。何も言われないと、OKなのか、もうあきらめられているのか、どっちかわからない。私も先日、初めての監督さんの作品でアフレコ したんですけど、一発目で「OKです」って言われて。なんか消化不良で「あの、もう1パターン考えてきたので、聞いていただいていいですか」って自分から言っちゃいました。

冨永さん

冨永

山寺

自分から?いやいや、いいんじゃないですか(笑)。でも、確かに不安になるときってありますよね。自分が迷っているときこそ不安になります。僕もこれでいいんですかっていうときはありますけど、どう対応するかはケースバイケースですね。一人だけでアフレコ をやっているときは「違うのも用意してきたんですけど」って言いますけど、みんなと一緒にやっているときはつきあわせたくないから言わないですね。
現場の空気感によりますけど、いっぱい練習していったからこそ、いっぱい聞いてもらいたいんですよね。「OKです」と言われても、もう1回やればもっとうまくできるんじゃないかって思うんです。「OKです」という言葉を胸に、帰り道ずっと反省しているということがよくあります。

冨永さん

冨永

山寺

そうですね、やったそばから反省しますよね。ただ、この質問の場合は、自分の考えと違う要求をされているわけだから、それに対応できなきゃ役者として、声優として失格だと思いますよ。自分なりに役作りをしていくのは大事ですけど、制作スタッフが全体を考えてそれぞれの役を作っているわけですから、現場で言われたことを理解できないのは力不足だと思います。「そうか、そういう考えがあったか」とすぐに切り替えて、それに合った演技ができなければ話にならない。一つの作品のパーツとして役者なり声優が参加しているわけですから。
台本を読み込む段階で、一つの言い方にこだわって、その言い方ばかり何十回も練習して行っちゃうと、そこから抜けられなくなる場合もありますよね。だから、自分で言い方を練習するとき、いろんなパターンをやってみて幅を広げておくことも大事かなって思うんですよ。

冨永さん

冨永

山寺

そうですね。どんな対応でもできるように練習しておくことが大切です。実際、現場で一緒に仕事をしていて、音響監督に何回言われても変わらない人っているんですよ。そこでパッと切り替えられる人って、やっぱり長くこの仕事を続けていますね。若くてもすぐに軌道修正できる人を見ると、うまいなと思いますし、自分もそうあろうと思います。凝り固まったままだと、臨機応変に対応することが難しくなります。柔軟性は、プロにとって非常に大事です。だから授業中でも、他の人が注意されているときに「自分はできているから関係ない」じゃなくて、「なんでできないんだろう」と考えるのも勉強の一つかなと思います。
その通りですね。いま、事前の準備が大切、柔軟性も大事というお話がありましたけども、考えすぎて頭の中がごちゃごちゃになって当日寝不足で行くよりは、しっかり寝て、すっきりして行った方がいいです。そうしないと、現場での突然の要求に応えにくくなりますから。

冨永さん

冨永

山寺

そうですよ。急に言われたことをやらなきゃいけませんから。たまに明らかに練習してきていない人を見ると、自分はそうならないようにしようと思いますね。たくさんの仕事を抱えると、そうなりがちなのかなと思うので、常に気をつけています。
山寺さんの場合は、声優や俳優だけじゃなく、ラジオのパーソナリティとしても長く番組をやってこられて、それだけいろんな現場を体験して活躍するって本当にたいへんだと思っているんです。

冨永さん

冨永

山寺

いや、声優としては若い頃から器用だねって言われて、自分でも器用な方だとは思いますけど、他の仕事に関しては本当に不器用ですよ。ドラマでも舞台でも映画でも、なかなか自分に納得できないというか、不安しかないです。だからもう、しっかり準備して、一生懸命やるだけですよ。どの現場に行っても学ぶべきことはたくさんありますし、演じていると楽しいし、いろんな刺激をもらえます。そこで得た刺激が声優の現場で生かせるといいなと思いながら日々頑張っています。だから、学生のみなさんもいろんな作品を観て、この人のこの表情、この声の出し方がいいなと思ったら、それを吸収しようと努めることが日々の勉強になると思います。

講義風景

Qustion 06

映画の吹き替えとアニメのアフレコ の違い

海外の映画の吹き替えとアニメのアフレコ の収録の難しさや、意識していることの違い、
現場の雰囲気の違いなどを聞かせていただきたいです。

山寺さん

山寺

これはインタビューでもよく聞かれますね。基本的に、演じるという意味では一緒なんですが、作品によって演じ方が違うんです。同じアニメでも、海外のアニメ作品なんかは違う人の声がすでに入っているので、演じ方も変わってきます。いまはアニメが人気だから、映画の吹き替えよりアニメのアフレコ の方が多いですけど。
作品としては、外画(洋画や海外ドラマなど日本以外で制作された映像作品)もアニメも増えていますけど、山寺さんとして、外画のお仕事が多い年とか、アニメの仕事が多い年とかってありますか?

冨永さん

冨永

山寺さん

山寺

両方のお仕事をずっとやらせてもらっていますが、アニメのお仕事の方が多いですね。アニメのアフレコ と映画の吹き替えって難しさが違っていて、日本のアニメの場合は、初めて登場するキャラクターの役をやることが多いので、原作がある作品だとものすごくプレッシャーを感じますね。みんなが思い描いてる声があるだろうから、そこになるべく近いものを出したい、それ以上のものをやりたいと思うんです。ただ、その難しさはあるけど、合わせるのはアニメの方がまだやりやすいですね。

アニメは声優が声を当てることを前提に作られているので、正解を求めやすいんですね。でも、洋画はメチャメチャ難しいです。向こうの俳優さんもうまい人が多いですし、それを日本語にするという元々無理なことをやっているので。

海外の名優がやっていることを、日本語という違う言語でやること自体がすごいことですものね。

冨永さん

冨永

山寺さん

山寺

そうなんです。向こうの人もいろんな難しい役をこなして、なおかつすごいテンポでしゃべったりしますから。それを日本語でナチュラルに聞かせるっていうのは、本当に至難の業だと思います。
外画の吹き替えで、特に気をつけていることって何かあるんですか?

冨永さん

冨永

山寺さん

山寺

なるべくその人が日本語をしゃべっているように聞こえるようにやっています。だから、いろんなしゃべりのバリエーションを持っていないとダメなんです。声優をめざす人って、どうしてもアニメの方に興味が向きがちだけど、プロになって吹き替えの仕事をするとき、映画をたくさん観ていないと苦労すると思いますよ。映画だけじゃなく、日常の中での人々のしゃべり方や舞台の役者さんのしゃべり方など、いろんなものを見て、自分ならこう演じるというのを考えておかないと対応できないと思います。
それこそ、学生のみなさんには山寺さんが吹き替えられた作品をたくさん観てほしいです。ものすごい技がいっぱい盛り込まれた作品がたくさんありますし、数多くの名優たちを演じてこられましたよね?

冨永さん

冨永

山寺さん

山寺

いや、でも自分でバッチリ吹き替えできたと思える作品なんてほぼないです。例えば、ジム・キャリー主演の『マスク』なんかは、ジム・キャリーがアニメーションっぽい演技というか、象徴的なお芝居をしているからやりやすかったですけど。
コメディの速さはすごいじゃないですか。

冨永さん

冨永

山寺さん

山寺

それは何回も練習すればある程度はできるんです。ただ、シリアスな映画でアカデミー賞を受賞するような人の吹き替えなんて、もう全然追いついてないんじゃないかと思っています。いろんなメソッドを勉強してきた名優中の名優がやっている細かいセリフのニュアンスなんて、とても無理。でも、表情で演じてくれているので、こっちはあまり細かいところまで無理する必要はないかなと思いますけれど。
最近、外画の吹き替えに興味のある学生が多くて、アニメと吹き替えを両方できる事務所はどこですかっていう質問をもらったりするんです。

冨永さん

冨永

山寺さん

山寺

そうですね。僕も一緒に仕事をしてみて、吹き替えばかりやっているからアニメの方では知られていないけど、うまい若手の声優さんはいっぱいいます。さすがだなって思う人がいっぱいいます。
わかります。声優さんって本当にいろんな声優さんいるので、まったく外画しかやらない方もいらっしゃいますし、ナレーションしかしない方もいらっしゃるし、いろいろ多岐にわたってやってらっしゃる方もいますし、それぞれですよね。

冨永さん

冨永

山寺さん

山寺

そうだね。いろいろですけど、これから声優をめざす人は、両方やれたら楽しいと思うし、それぞれが良い影響を及ぼすと思うので、できれば両方の仕事をやれるようになるといいと思います。そのためにも、ナチュラルな演技もデフォルメした演技も全部、自分の中でやれるようになるとすごく楽しいと思います。
楽しめるようになるために準備しておこうってことですよね。そう考えると、練習すること自体、苦にならなくなる。

冨永さん

冨永

山寺さん

山寺

そうなんです。この仕事をしていると、よく苦労話を聞かれるんですけど、そもそもこの仕事が好きだし、やっていて楽しいんですよ。好きなことを仕事にしているんだから、努力するのは当たり前だし、努力しないっていうのは僕からしたら訳がわからない。うまくいかなくて歯がゆい思いもすると思いますが、ぜひそこを超えて行ってほしいと思います。
はい。今日はたっぷりお話を聞かせていただいたんですけれども、最後に山寺さんが長年続けていらっしゃる「声優口演」を見せていただけるということで。

冨永さん

冨永

山寺さん

山寺

「声優口演」というのは、無声映画の名作をその場で吹き替える“口の演技”です。養成所時代からお世話になっている声優の大先輩の羽佐間道夫さんが始められたイベントで、僕のライフワークになっています。現在ではいろんな人が参加していて、その中で僕はチャップリンの無声映画に声を当てて演じています。いつもは、35分ぐらいの作品を全部一人でやっているんですが、今日は3分ぐらいのショートバージョンでやってみたいと思います。

声当てをする山寺さん

1917年作品『チャップリンの冒険』に約3分間、声を当てて演じる山寺さん

山寺さん

山寺

以上です。すみません。(大きな拍手に)ありがとうございます。
なんか私、感動して涙が出たんですけど。こうやって生で見させていただいて、本当にありがとうございます。学生代表の2人は、どんな感想を持ちましたか?

冨永さん

冨永

麻生さん

麻生

こんな距離で演技を見させてもらって、本当に感無量です。瞬間的にいろんな役を切り替えて演じられる様子を見て、私もこうなりたいなってすごく感じました。ありがとうございました。

原田さん

原田

いやもう、間近で見させてもらって、表情とか気持ちが動いているのが目に見えてわかって…すごかったです。今日は来ていただいて本当にありがとうございます。
それで、原田くんから山寺さんにぜひ聞いておきたいことがあるんですよね。

冨永さん

冨永

原田さん

原田

はい。僕、年齢とか演技とかすべてにおいて幅がないって授業でよく言われるんですけど、幅を広げるにはどうすればいいか教えていただきたいです。
幅ね。あの、声優って声を作るっていうイメージを持っている人がいて、どうやって声を変えているんですかと聞かれることがあるけど、そういう問題じゃないんですよ。自分の持っている声で勝負すればいいんです。そのうえで、いろんな役をやらないといけないから、ちょっとだけ変えて、いろんなお芝居をしてみればいいんです。

山寺さん

山寺

原田さん

原田

ありがとうございます。
以前、授業でも言ったんですけど、みんなもできてはいるんです。ただ、プロと比べると精度が違うというか。例えば、学生のみんなはダイアルで言うと0、50、100の3つの目盛りがあるだけみたいな。でも、プロの人は1、2、3、4、5と目盛りが細かく分かれている。だから、できていないわけじゃないんですよと。

冨永さん

冨永

山寺さん

山寺

そうだよ、きっとできるんだよ。ただ自分で開発できていないだけで。それには日頃の鍛錬が必要ですけど。でも、演技の幅が身についたら、声優は声を変えるだけでいろんな役を演じることができる。役者の場合は、いちいちメイクを変えなきゃいけないとか、一定の制限があるけれど、声優にはありません。それが声優という仕事の醍醐味だし、自分が持っている声を大事にしながら頑張ってほしいです。
そうですね。今日お話いただいたことを糧に、学生のみんなはどこかの現場で山寺さんに会えることをめざして勉強を続けると思います。さて、楽しい時間はあっという間に過ぎ、お別れの時間になってしまいました。最後に、学生のみなさんに向けて山寺さんから一言お願いします。

冨永さん

冨永

山寺さん

山寺

そうですね。今日は養成所の話もありましたが、当時と違って、より厳しい世界になっていると思います。いまは声優に限らず、エンタテインメント業界全体がたいへんだと思います。声優はやりたい人が多いので特にたいへんですが、本当に実力やセンスのある人は必ず誰かの目に止まり、絶対出てくると僕は信じています。

だから、努力を怠らずに本気で好きでいること、あきらめないで目標をめざし続けることが大事だと思います。本当に声優の仕事は楽しいし、いろんなエンタテインメントをやっていて楽しいし、やりがいのある仕事だと思います。道は厳しいと思いますけど、好きを楽しみながら精一杯頑張ってください。いつか一緒の現場でお会いできることを祈っております。今日は聞いてくれて、ありがとうございました。

※講義の一部をテキスト用に再編集しています。