目次
第1部「演技・役づくり」」
第2部「メンタルについて」
第3部 学生からの生質問コーナー
第4部 スペシャルインタビュー「エンタメ業界をめざす若者へ」
山寺 宏一さん
【プロフィール】
声優、俳優、タレント、ナレーター。アクロスエンタテインメント所属。宮城県塩竈市出身。
出演作は、〈アニメ〉『メガゾーン23』(中川真二役)、『それいけ!アンパンマン』(チーズ役、カバお役ほか)、『アラジン』(ジーニー役)、『新世紀エヴァンゲリオン』(加持リョウジ役)、『カウボーイビバップ』(スパイク・スピーゲル役)、『攻殻機動隊SAC』(トグサ役)、『かいけつゾロリ』(ゾロリ役)、『ルパン三世』(銭形警部[2代目]役)、『ドラゴンボール超』(ビルス役)、〈外画〉『マスク』(ジム・キャリー)、〈ゲーム〉『龍が如く4 伝説を継ぐもの』(秋山駿役)など多数。第38回ギャラクシー賞奨励賞(2000年)、第3回声優アワード富山敬賞(2009年)、ファミ通アワード2013キャラクターボイス賞(2013年)、第24回日本映画批評家大賞アニメーション声優賞(2015年)、第14回声優アワード外国映画・ドラマ賞(2020年)などの受賞歴がある。
スペシャルインタビュー
特別講義を終えた山寺宏一さんに、学生時代にやっておいた方がよいこと、基礎の大切さ、エンタテインメント業界をめざす若者たちへのメッセージなどをうかがいました。
声優や俳優をめざすにあたり、学生のときから身につけておいた方がよい考え方や心構えはなんでしょうか?
山寺
いろんなことに興味を持つことだと思います。俳優とか声優はどんな役が来るかわからないので。僕の場合は、田舎だったので映画館にもそんなに行けなかったし、舞台を観に行く機会もなかったので、テレビばかり見てましたが。環境にもよりますが、いろんなことに興味を持って、自分が面白いと思うものを見つけることが大事だと思います。
また、「伝えたい」という思いも大切ですね。例えば、面白いことがあったときに、それを面白く人に伝えることで、表現力って磨かれたりする。僕は人に笑ってもらうのが好きだったので、小さい頃からものまねしたり、こんな面白いことがあったよって友達や親によく話していました。そうやって人に何かを伝えて喜んでもらうということも大切な気がします。
あと、人の話をちゃんと聞けるかどうか。監督が何を求めているかわからないようではダメなので。そのためには、人とたくさんコミュニケーションをとって、聞く力やコミュニケーション力を養っておくといいと思います。
学校のカリキュラムには基礎的な科目が多く、基礎固めは地道な作業なので、本当に成長できているのか不安に思っている学生が少なくありません。山寺さんは基礎の大切さについて、どのようにお思いですか?
山寺
基礎はとても大事ですね。発声や滑舌がうまくできないと何も始まりませんし、演技の基礎を身につけておくことも大切です。僕は養成所に通いましたけど、もっと肉体を使って表現する経験を積んでおけばよかった、演技の基礎をもっと学んでおけばよかったと、舞台やドラマに出たときに感じます。演技の本質というか、基礎的なところはいまでも学び直そうかなと思ったりします。
学生のみなさんも、基礎をベースにして、そこから「自分が本当にやりたい演技って何だろう?」ってどんどん広げていって、自分で追究することも大事だと思います。
最近はAIやデジタルヴォイスが注目を集めています。声優やクリエイターをめざす若者にとって気になる存在だと思いますが、山寺さんはどのようにお考えでしょうか?
山寺
文章や絵、デザインなどに関しては、本当に深刻な問題だろうなって思います。もちろん、声の分野においても脅威であることは間違いありません。感情を伴わない、淡々と読んでいくようなものは、もう取って代わられるんじゃないですかね。聞く側がデジタルヴォイスだとわかった上でそこに魅力を感じ、感情移入する人もいるわけですから。声質とかも調整できるし、AIがどんどん進化していけば「いろんなパターンで何でもできるよ」っていう時代がくるかもしれません。
一方で、感情を伴う表現においては、まだまだAIが人間に追いつくのは難しいと思います。開発するのに膨大な時間とコストがかかるでしょうし、それなら声の仕事は声優がやった方が早いっていうことになるでしょう。結局、AIがどれだけ進化しても、AIでは実現できない表情や演技ができる人は求められ続けると思いますよ。AIの登場によって声優の仕事はますます狭き門になっていくと思いますけど、それを越えていかないとダメなんだろうと思います。
感染症の影響でここ数年停滞気味だったエンタテインメント業界が活気を取り戻しています。山寺さんのご経験を踏まえ、これからのエンタテインメント業界はどうなっていくとお考えでしょうか?
山寺
コロナ禍を経験して思ったのは、エンタテインメントは人々の生きる活力になり、生活を豊かにするということです。人々が生きていく上で絶対的に必要なものであると実感しました。もちろん、生活に不可欠な衣食住に関わるものの方が重要ですよ。その上で、人間は何らかの楽しみがないと生きていけないと思うんですね。いまは、スマホで何でも見たり聞いたりできる時代になっています。インターネットによって、どんどん手軽にエンタテインメントを楽しめるようになっている。だから、むしろ生で観る芝居の良さが再認識されるべきだと思いますし、実際そうなっている気もします。
これからもそれは変わらないでしょうね。時代はどんどん変わっていって、なくなるエンタメもあれば、新たに創り出されるものもあるでしょう。そういう意味では、どんなエンタメがこれからの人々を楽しませるのか、個人的にとても興味がありますね。
日本工学院では、エンタテインメント業界をめざす学科が多く、とても人気のある分野です。エンタメ業界をめざす若者に、ぜひメッセージをお願いします。
山寺
さきほどもお話しましたが、エンタテインメントには人の心を豊かにする力があると僕は信じています。そしてそこには、人々を楽しませたいという純粋な思いが絶対に必要だと思っています。ぜひ強い気持ちを持って、日本のエンタテインメントを盛り上げていってください。世界に通用する若きクリエイターが日本からどんどん生まれれば素敵ですし、みなさんには無限の可能性があります。自分が好きなことを仕事にできることはとても幸せなことですので、「好き」を最大限に生かしてがんばってください。若きクリエイターの活躍を心から期待しています。